Society5.0-データ駆動型社会を考える-

スマートシティの取組が加速しています。最近の米国IDCの調査によれば、2018年のスマートシティ関連市場の規模は約800億ドル(約8.5兆円)であり、2021年にはこれが1,350億ドル(約14.3兆円)まで拡大するという。特に、米国と中国における拡大が著しく、年率20%近く拡大するようです。わが国では、経済産業省が2010年からスマートコミュニティに、その後総務省がデータ利活用型スマートシティに取り組んできましたたが、今年から国土交通省も実証事業に着手しました。国土交通省の参画によって、都市の移動空間におけるIT活用が進む可能性があります。

スマートシティを含む社会システムへのIT、AI技術の活用という意味では、「未来投資戦略」で提起している「Society5.0」「データ駆動型社会」によって、我が国としての取組の全体像をみることができます。「未来投資戦略2017」によれば、「Society5.0」に向けた重点戦略分野として、①健康寿命の延伸、②移動革命の実現、③サプライチェーンの次世代化、④快適なインフラ・まちづくり、⑤FinTechの5分野があげられている。スマートシティは、これらを地域で横断する取組と考えると理解しやすいと思います。

内閣府総合科学技術・イノベーション会議の資料によれば、「Society5.0」は狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に次ぐ5番目の社会であり、①サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させることにより、② 地域、年齢、性別、言語等による格差なく、多様なニーズ、潜在的なニーズにきめ細かに対応したモノやサービスを提供することで経済的発展と社会的課題の解決を両立し、③ 人々が快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることのできる、人間中心の社会 だといいます。また、「Society5.0」で提供されるサービスは、AI,ビッグデータ処理技術、サイバーセキュリティ技術等の基盤技術を核とする、共通基盤技術、データベースというプラットフォーム上のサービス(アプリケーション)と整理されています。

この中で最初に出てくる、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させるという表現は、「インダストリー4.0」を想起させます。結局、「Society5.0」は、産業戦略としての「インダストリー4.0」を社会システムまで拡張した取組ということなのだという考えに思い至りました。リアルワールドとほぼ一致するサイバー空間をシステム上に構築し、そこでシステムの最適制御を実現するということです。インダストリー4.0では、これによってグローバルに展開する事業所の一元的な生産管理と機能の立地戦略への活用が構想されていますが、「Society5.0」ではこうした考え方を都市空間や社会システム全体へ展開することが目指されているのだと思います。そう考えると、未来投資戦略2018から「データ駆動型社会」という表現が使われるようになったことも、なんとなく理解することができます。

「データ駆動型社会」という表現からもうかがわれるように、ビッグデータの活用技術の進歩、公共データのオープン化等と相まって、社会におけるデータ利用は一層進むものと思われます。これによって、エネルギー利用の効率化、防犯環境の向上等、社会環境の改善が進む面も多いと考えられます。実際、最近のスマートシティは、エネルギーの改善だけでなく、コミュニティの形成にまでIT活用を展開している事例もあり、訪問してみてその可能性に注目したくなることもあります。

その一方で、あまり技術志向を強めすぎると、生活者の感覚とはずれてしまうことが多いとも感じています。また、どうしても気になるのはサイバーセキュリティの問題です。産業戦略が対象とされているときは機にならなかったのですが、社会システム全体が対象になると考えると、ジョージオーウェルが1984年で描いたビッグブラザーによる管理社会のイメージも頭をよぎってしまいます。

Society5.0が「ユートピア」ならぬ「ディストピア」とならないないようにするためにも、社会システムの形成を自らの問題として捉え、形成に向けて参加意識を持つことが重要だと改めて肝に銘じたいと思います。

(参考)内閣府総合科学技術・イノベーション会議資料http://www8.cao.go.jp/cstp/panhu/csti.html

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