まちづくりにおけるアドボカシー-RiNO Art Districtの取組に学ぶ-

最近、地域政策の分野で、目にする機会の増えた用語に「アドボカシー(advocacy)」があげられます。例えば、観光庁が創設を提案している「ビジネスインバウンド推進協議会(仮称)」では、「企業ミーティング及びインセンティブ・視察等の誘致強化を図るため、官民間・異業種民間の連携促進、アドボカシー活動促進を目的とした官民横断組織」と説明されています。また、経済産業省の「地域ストーリー作り研究会」の資料でもアドボカシーという表現が当たり前のように用いられていました。ただ、「アドボカシー」の意味については、私自身を含めて、分かったようでよくわからないという感覚をもっている人も多いようです。

アドボカシーは、本来「擁護」や「支持」「唱道」などの意味を持つ言葉で、日本では近年、「政策提言」や「権利擁護」などの意味で用いられるようになっていると説明されています。地域政策の分野でいうと、主張を広く知らしめるという意味で政策提言に近いのですが、米国の事例をみていると、その先のロビイングや合意形成等、もう少し具体駅なアクションをともなった活動を意味しているように思うのです。

具体的な事例として、米国デンバーにおける衰退した工業地域をアートによって再生した“RiNo Art District”の取組を紹介しましょう。この地域の再生を中心になって推進したのは、Tracy WeilとJill Hadley-Hooperという、地域の二人のアーティストです。2人がアートによってこの地域を再生しようという取組を2005年に開始して、賛同者が1年間で50人にまで増えたといいます。2007年には登録NPOとしての資格を取得。その後、2014年にコロラド州から創造地区(Creative District)として認定されたことをきっかけとして、デンバー市のBID(RiNo Business Improvement District )、GID(RiNo Denver General Improvement District )の指定に成功します。BID、GIDに指定されました。現在はもともとのNPO組織“RiNo Art District”と、BID、GIDが連携しながら、市の予算を用いて起業促進、インフラ整備等の地区整備を推進しています。

  • RiNo Art District
    RiNoブランドの創造、アーチスト、クリエイター、起業化の振興をめざすNPO組織。予算24.5万ドル(2017年)
  • RiNo Business Improvement District(BID)
    RiNo地区のプレイスメイキング、マーケティング、企業支援などを推進するための公民連携組織。予算72.8万ドル(2017年)
  • RiNo Denver General Improvement District(GID)
    主としてインフラ整備のための公民連携組織。地区内不動産への課税で財源を実施。予算52.1万ドル(2017年)

この取組において、“RiNo Art District”がずっと担ってきた役割がアドボカシーです。政策提言も行っていますが、この地区をアーティストが集うコミュニティの拠点として再生したいというビジョンを中核にして、そのためにできることは何でもやるということを組織のミッションにしているように思います。ビジョンを実現するために、関係者をまとめ、実現に向けて行政に働きかけ、事業予算も獲得するという、広範な内容を含んでいます。このケースを踏まえるとアドボカシーは、ビジョンを実現するための様々働きかけ全般、と捉えるのがよいように思います。

そして、このケースは、ビジョンや計画を神にまとめるだけでなく、あるべき姿を見極めたらその実現に執着してやり切ることの大切さを教えてくれます。まちづくりでは計画が策定されただけで終わってしまうケースは枚挙にいとまがありませんが、計画を策定することが目的なのではなくて、計画を実現することが大切なことはいうまでもありません。実現させるためには、関係者の合意を取り付けて補助金を獲得することも重要な取組だと思います。批判の多い補助金ですが、努力を積み上げて獲得された補助金は有効に使われる可能性が高いのではないでしょうか。

民間はもとより行政も含めて、行動と成果を重視するアドボカシーという考え方が普及することに期待したいと思います。

Rino Art DistrictとBID,GID

       https://rinoartdistrict.org/about/rino-art-district

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