地方シンクタンク機能の強化に向けて

近年、基礎自治体における地方シンクタンク機能強化の動きが進んでいます。地方分権一括法が施行された2000年に上越創造行政研究所、小田原市政策総合研究所が設立され、その後も、かすかべ未来研究所(埼玉県)、佐世保市政策推進センター(佐世保市)、駒ヶ根市政策研究所(駒ヶ根市)など、各地でシンクタンクが設置されました。設置自治体はその後も増加し、2016年5月1日時点で全国64か所に設置されているといいます。さらに、最近は地方金融機関にも、八十八銀行が「地域活性化総合支援窓口」を設置したり、七十七銀行がシンクタンクを設置したりと、地方におけるシンクタンク機能強化の動きが広がっています。

地方シンクタンクといえば、わが国の高度経済成長期に設置が進み一定の役割を果たしたものの、天下り先と化し、形骸化した団体も多く輩出し、90年代の行政改革の中で整理統合が進んだとのイメージがあります。しかし、2000年の地方分権一括法の施行を受けて、改めて地域独自の政策立案能力や、それを担う人材の必要性が認識され、従来とは異なった形で地方シンクタンクが再評価されるようになったのです。

そして、2014年に開始された地方創生が、こうした動きを加速しました。政府から地方活性化 には競争原理を導入することが不可欠、結果として格差が生じることも止むを得ないとの認識が示され、政府の交付金を確保するためには、総合戦略を策定するようにとの条件が突きつけられたのです。自治体におけるシンクタンク設置の動きは、こうした環境変化への対応ととらえることができると思います。

ただ、各地で展開されている地方創生や地方シンクタンク設置の取組の成果については、疑問を感じることも少なくありません。例えば、策定義務はないにも関わらず大半の各地で策定された地方版総合戦略は、地方創生交付金欲しさに形だけ整えたものも散見されるように思います。地方創生に向けて整備されたRESASについても、「地方自治体職員から見た地方創生の現状と課題-産業振興行政担当者に対する意識調査の概要-」(経済産業研究所、2016年12月)によれば、「RESASがどのようなものなのか知らない」との回答が42.8%を占めているのが現状です。

また、増えている自治体内の地方シンクタンクにしても、どちらかというと地方自治体内向けの提案だったり、人材育成に注力しているためでしょうか、目立った提言はあまり見聞きしないようです。以前から、わが国の地域シンクタンクはたいていの場合、行政の「支援装置」にとどまり、学際的な政策分析を通じて地域の意思決定過程に参画しているとは必ずしもいえないと指摘されてきました。これは受託業務の割合が多い独立・団体系、金融機関系のシンクタンクの場合も同様です。しかし、地方シンクタンクが地域の情報発信力や、プレゼンスの向上に寄与するためには、独自の政策提案が必要なことは言を俟ちません。

増えつつある地方シンクタンクが地方分権・地方創生の一翼を担う「地域変革の参謀」として機能するようになって欲しいと思います。そのため、以下の機能の拡充に期待したいと思います。

  • ナレッジプラットフォームの構築
    • RESAS,e-stat等の活用による地域の見える化、定点観測
    • 先行事例、政策情報のワンストップサービス
  • 政策形成に向けたコーディネーション
    • 政策フォーラム・フューチャーセンターの開催
    • 事業コーディネーション
  • 政策マネジメントの支援
    • 証拠による政策立案(EBPM)の支援
    • KGI・KPIの設定、PDCAの制度設計の支援
  • アドボカシー(政策提言)

特に、地方シンクタンクが、そのプレゼンスを高めるためには、独自の専門分野をもち、その領域において推進すべき政策について、独自のカラーを持って政策提言を行うことが重要だと思います。それぞれの視点に立った役割を見極め、アドボカシーの強化に取組むことが重要だと考えます。

 

 

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