カバンストリート 豊岡市宵田商店街の取組から

最近、訪れた街でこれは面白いと思ったのが、カバンストリート として売り出している豊岡市の宵田商店街。豊岡市は、柳行李の生産をルーツとして、今は「豊岡鞄」のブランドで売り出すわが国有数のかばん生産地。生産量は我が国のカバン生産の7割のシェアを占めるそうです。地方都市の商店街ながら、カバンという地場産業に着目し、店舗集積とブランド形成に取り組んでいます。

宵田商店街が、カバンストリートとして活性化をめざすようになったのは2005年3月のこと。当時は一軒もなかったカバン店が今では15店舗。オリンピックの際に聖火を運ぶカバンを作ったという伝説のカバン職人植村三千男氏の工房や、デザイナーとして世界で認知されている由利佳一郎氏ショップも立地しています。今は店舗立地の問い合わせがあるが、空き店舗が見つからず、待ってもらっている状態とのことでした。地方都市の商店街は、総じて空洞化が進んでいますが、カバンストリートでは、そんな悲壮感は感じません。

決して交通が至便とはいえない人口約8万人の地方都市に立地していながら、カバンストリートが、衰退を免れた理由が3つあると思います。

ひとつは、早い時期に SPA(製造小売)商品としてのカバンのポテンシャルに着目し、地場産業と連携して商店街振興に取り組んだこと。私も例外ではありませんが、世にカバン好きは多いと思います。外出時にはだいたい持って歩くということもあり、買う時もこだわり、使いながら愛着が深まってしまう道具だと思います。だから、ファッシナブル性が重視され、付加価値も高いのだと思います。よいカバンは単一のオリジナル商品であり、だからこそそれを生産し、販売する産地をおとずれる意味があるのだと思います。このポテンシャルに早い時期に着目したのは慧眼だと思います。

2つ目は、 商店街の真ん中に豊岡鞄協会の協力のもと、豊岡まちづくり株式会社が運営する Toyooka Kaban Artisan School(トヨオカ カバン アルチザン スクール)というカバン製作のプロを育てる学校が開設されたことです。施設も立派ですが、何よりカバン製作の指導者の存在と、インターンも可能な市内のカバン関連業者の集積があり、ここでは一年でプロのカバン製作技術を身につけることができるそうです。こうした環境から、全国からカバン職人を目指す人材が集まってくるようになったということで、地域活性化への大きな効果をもたらしました。

3つ目は、城崎温泉という有名観光地に近接した立地条件。 まち歩きを楽しめる城崎温泉はインバウンド旅行客も多く、日本海側の有数な観光地となっています。カバンは城崎温泉でも売られていますが、 宵田商店街にとっても魅力的な顧客といえます。うまくいったのが、カバンの自動販売機の設置。カバンの自販機は珍しいと話題になり、その際は多くの観光客が訪れるようになったそうです。

もちろん課題も抱えているようです。ひとつはまだOEM生産が中心で、自らのブランドを立ち上げようという事業者が限られていること。もうひとつは、カバンの自販機に次ぐ話題を作り切れていないこと。また、まちづくりのビジョンが確立しておらず、カバンで売り出そうとする民間事業者と、住民サービスの充実に注力しようとしている行政の足並みが揃ってないようにも見えます。

やはりいろいろ問題はあるようですが、それでも、この街には大きな可能性を感じます。というのも街の人たちが、ほんとうに豊岡の街を愛しているから。

カバンのデザインで世界に進出している由里さんに、失礼ながらなぜ豊岡に店を構えているんですか、と聞いたところ、「だって僕はこの街で生まれたんですよ」と、即答されてしまいました。また、 東京で活躍していた植村三千男氏も戻ることに迷いはなかったといいます。異口同音にでてくる東京に出てもいつか故郷に帰りたいという強い思い。こんな思いに支えられた街は、強いはずだという確信をもちました。

地方のクリエイティブな街として、ぜひ今後の発展を見守りたいと思います。

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