未来思考(その2)-バックキャスティングについて-

未来思考について、「バックキャスティング」という考え方も、最近よく目にします。これは、将来のあるべき姿(To Be)を見定めて、それと現状(As Is)を対比することによって、取り組むべき課題を明確にする考え方や、そのための手法のことを意味しています。その際に、現状(As Is)を踏まえて将来のあるべき姿(To Be)を考えるのではなく、あるべき姿を考えて、改善点を明確にすることによって、単なる改善にとどまらない、飛躍的な改革を実現しようとするものです。

これはBPR等の業務システム最適化の分野では、当たり前の考え方ですが、社会的な課題について、この「バックキャスト」という用語が注目されるようになったのは、2016年の日本再興戦略で用いられたからではないかと思います。具体的には、同戦略では、第4次産業革命を展望した一節に次のような記述があります。

「第4次産業革命は、技術やビジネスモデルがどう革新していくのか、方向性を予見するのが難しく、絶対的にスピードが重視される時代である。官民ともに「待ち」の姿勢は命取りとなりかねない。産学官の英知を結集し、将来のあるべき姿を官民で共有し、そこからバックキャストすることで、技術と我が国の強みをいかしたビジネス戦略を検討する。そして、そうした中で、民によるビジネスモデルの作り込みと官による規制・制度改革、官民協調による技術開発の推進やデータプラットフォームの創出促進など具体的なプロジェクトを推進していくことが必要である。」(日本再興戦略2016 p5)

実は、1990年代の野村総合研究所で、このバックキャスティングとほぼ同じ意味で「逆投影法」という用語を用いていたことがあります。当時はバブル経済崩壊後で、現在と同様、まさに予測困難な時代だったと思います。地域戦略を立てるにしても、トレンドで将来を描きにくく、あるべき姿に思いをめぐらしたものです。また、1980年代後半から、国土庁(現在は国土交通省)の業務として首都機能移転にかかる検討を担当していた際も、諸外国の取組モデルを学びながら、我が国における新首都のあるべき姿に思いを馳せていたように思います。例えば、首都における都市の開発フレームの考え方や、環境に配慮したコンパクトな小都市群から構成するクラスター型の都市開発形態は、バックキャスティングによる計画の良いモデルだと思います。

その意味で、「バックキャスティング」という用語には既視感を覚えるところもありますが、短期的思考が強まる中で、最近はこうした長期的なビジョンを見失ってしまっているかもしれないと自戒の念を持ちました。改めて現代のコンテクストの中でもビジョンを明確に持って、未来を切り拓くことの重要性を心にとめて行動したいと思います。また、うち手に困ったときは、原点に立ち返って、環境変化の中でのありたい姿(To Be)と現状(As- Is)、さらにはありたい姿(To Be)と避けたい姿(Not To Be)を対比することをお勧めしたいと思います。

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