多様性の創造に資するデータ連携

最近になって、3Dフードプリンターの利用方法を考える研究開発プロジェクトに参加する機会を持ちました。

様々な分野で3Dプリンターの実用化が進んでいることは知っていましたが、3Dフードプリンターのことはこれまであまり知る機会がありませんでした。最初のころは2次元で食品への印字等に用いられていたようですが、ここにきてフードカートリッジを用いることにより、ノズルから出る食材を組み合わせることで、3次元で寿司等のこれまで考えられなかった調理品の製作が試みられていることに新鮮な驚きを覚えました。

データとフードカートリッジがあればどこでも同じものが製作できるわけなので、こうした取組でアナウンスメントされているように、宇宙空間で寿司を食べられるようになるのも夢ではないのかもしれません。

もう少し身近なところでも、これまでペースト状の食品が多かった介護食等については、素材のデータとフードプリンターをうまく活用することで、見た目や食感の改善が進んでいるようです。

 

                                               https://cuisine-kingdom.com/3d-food-printer/

 

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モノづくりをデータで置き換えて処理するという取組には、以前も驚きを覚えたことがあります。数年前に、ファブラボ鎌倉(FabLab Kamakura)を取材する機会があり、コンピューターで制御される3Dプリンターやレーザーカッターでモノづくりが行われる様子をみて、たいへん興味深く思ったという経験です。

当時、鎌倉でお話をお伺いして面白いと思ったのが「オープンデザイン」という考え方。鎌倉で革職人が開発した革のスリッパキットの設計図(データ)が、世界のファブラボで共有され、このスリッパの設計図を元にレーザーカッターを使って、その国の文化や風土を背景にオリジナルな意匠を施した新しいスリッパが作られたそうです。

例えば、素材はもともと牛皮を用いたとのことですが、ケニアでは牛革の価格が高いこともあり、巨大な淡水魚の皮が用いられたといいます。同じスリッパの設計図が、使用する地域で工夫され、新しい製品が生まれるというプロセスをたいへん面白いと思いました。

「ファブラボ」は、もともとはMITメディアラボのアウトリーチとして始まった活動ですが、2021年6月時点で127カ国に2,026のラボがあり、日本には鎌倉をはじめとして20のファブラボが存在しています。

しかもファブラボが立地しているのは大都市だけではありません。別件で一昨年訪問した阿蘇の南小国町にも立地していて、びっくりしたことがあります。数根前の取材当時は日本に数か所しかなかったとお伺いしていたので、取組が着実に広がっているということを実感しました。

 

                        http://fablabjapan.org/about/

 

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3Dフードプリンターや、ファブラボの取組は、Society5.0がめざすサイバー(仮想)空間とフィジカル(現実)空間の融合が、世界各地で開発されたレシピやデザインの交流促進にも有効なことを教えてくれます。

ファブラボで開発されたスリッパのデザインが、インターネットを介して世界中に広がり、世界各地の素材を活かして様々なバリエーションが生まれたように、データ化された和食のレシピが世界各地の素材と出会って、新たな料理の可能性が生まれるという「食のオープンデザイン」も夢ではない気がします。

また、注意を払うべきなのは、こうした多様化を引き出すシステム利用は、デジタルツインの考え方にたった、システムの統合化や最適化をめざす取組とはベクトルが違うことではないでしょうか。サイバー君間でリアルを再現するデジタルツインの主な狙いは最適化だと思います。ただ、資源利用の効率化を実現するためにシステムの最適化の推進が重要だとは思うのですが、下手をするとやりすぎてしまう懸念もありそうです。

Society5.0の取組を実りあるものにするためには、最適化の名のもとに過度に画一化をめざすのではなく、それぞれの関連主体の自由度を許容する中で、むしろ多様性を引き出す社会システムを構築することに目を向けることが大切だと感じます。最近は、多様性を許容するという意味で、システムの「統合」だけではなく「連携」に注力すべきではないかとと考えています。

 

 

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