2040年の地方統治を考えるために

現在、審議が進められている第32次地方制度調査会では、「人口減少が深刻化し高齢者人口がピークを迎える 2040 年頃から逆算し、どのような課題に地方公共団体が直面することになると考えられるか、また、どのように対応することが求められるか」を当面の調査審議事項に定めて検討が進められています。最近のバックキャスティングの好例ですが、この7月には中間報告案が取りまとめられ、ひとに着目した方策、インフラ・空間に関する方策、技術を活かした対応を行うための方策が提起されています。

しかし、より大胆で面白いのは、地方制度調査会に諮問される前に総務省の研究会でとりまとめられた「自治体戦略2040」ではないかと思います。地方制度調査会の答申より粗削りですが、大胆な提案が行われています。例えば、地方の担い手が不足する状況を展望し、今後の地方における統治機構のあり方として、圏域マネジメントと二層制の柔軟化という考え方が提起されています。

圏域マネジメントは、圏域単位での行政のスタンダード化ということです。人口減少、高齢化が進行し、担い手が減少してしまう地域では、都市機能維持するために、圏域単位のマネジメントの重要性が高まらざるを得ないという考え方です。もうひとつは都道府県・市町村の二層制の柔軟化という考え方です。前者は、連携中枢都市圏など、総務省が従来から推進している取組ですが、後者は今まであまり取り上げられて来なかった考え方であり、興味深く思いました。

具体的には、人口減少、高齢化が急速に進行する市町村では、役場の維持のために必要な労働力の確保が困難になることが見込まれ、こうした地域では、都道府県・市町村の二層制を柔軟化し、それぞれの地域に応じ、都道府県と市町村の機能を結集した行政の共通基盤の構築を進めていくことが求められるというのです。これまではどこの地域も市町村と両方に属してきたわけですが、極論すると基礎自治体としての市町村が存在せず、都道府県のみに属する地域の登場を容認するということのように思えます。

ただ、海外に目を転じると、基礎自治体が存在しない地域を容認している国も少なくありません。例えば、米国の場合、基礎自治体(municipality)は州の授権法のもとで設立される機関であり、州の一部の地域しかカバーしていませんし、面積も毎年変化しています。また、カバーしていない地域の公共サービスは、州の下部機関としてのカウンティが対応しています。同様に、ドイツでも基礎自治体(Gemeinde)が存在せず、郡が直接管理する無市町村地区が248件存在するそうです。

もちろん基礎自治体の存在を重視する国も存在しています。例えば、フランスでは、約36,000件といわれる規模の小さな基礎自治体(commune)が国全体をカバーしています。そして、こうした規模の小さい自治体の存在を前提とした地域マネジメントの仕組みとして、広域的な組織に徴税権を移譲する課税型EPCIという仕組みが存在しています。日本の広域行政との違いは、広域行政組織に徴税権を移譲し、様々な施策の遂行能力を高めていることです。

これからの日本の統治機構を検討するためには、こうした海外の先行的な取組から学ぶことも有効だと思われます。地方制度調査課の中間答申では、まだ統治機能の将来的なあり方は、明確に示されているわけではありませんが、早晩自治体戦略2040年に示されているような事態が生じると見込まれます。海外の制度をそのまま持ってくることはほぼできませんが、将来のあり方を探る上で、それぞれの国の状況をヒントとして活用すべきだと思います。

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