WAGRIからスマートフードチェーンプラットフォームへ -「食」に係るデータ連携基盤構築の取組-

最近、よく耳に入ってくるデジタルトランスフォーメーション(Digital transformation; DX)とは、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念であり、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱したといわれています。

今日、改めてこのコンセプトが注目されるようになった背景として、データがバラバラで非効率な状態が残されてきた一方で、基盤、システム等のICTの革新に伴い、ようやくこうしたデータを一元的かつスムーズに処理できるようになったことがあげられます。

 

こうした中で、農業分野については、内閣府が実施する第1期戦略イノベーション創造プログラム(SIP)の「次世代農林水産業創造技術」において、農業情報データ連携基盤WAGRIが構築され、農研機構が運営主体となって、既に商用サービスの提供が開始されています。まだ作目や対象データは限られていますが、WAGRIの構築を通じて、今までバラバラだった農業に関わるデータを集約・蓄積できるようになり、それによって農業にかかわるさま残な主体が必要なデータを相互に運用できるようになりつつあります。

また、第2期戦略イノベーション創造プログラム(SIP2)では、WAGRIの機能を生産に加え、加工・流通・消費にまで拡張し、農業・食品バリューチェーンのICT基盤として、スマートフードチェーンプラットフォーム(SFP)を構築することが目指されており、出荷物の個別識別コードに基づき、トレーサビリティと品質管理を行えるシステムのプロトタイプが構築されています。

 

とはいえ、こうした仕組み構築のためには、まだまだ解決すべき課題や、様々な障害が存在しています。農業の場合、公的にも環境データや作物情報、生産計画・管理、技術ノウハウ、各種統計等、幅広い農業データが提供されており、国内外のICTベンダーや農機メーカー等によって、様々なシステムソリューションが提供されていますが、WAGRIの対象品目や、利用可能なデータ範囲を拡大し、連携、共有、提供可能なデータを拡充することが引き続き課題です。

農業生産に加え、加工・流通・消費も対象範囲とするスマートフードチェーンプラットフォームの場合、より多くの課題に直面しています。例えば、連携すべき帳票等の様式や処理システムがバラバラなことはもとより、流通現場では多くの帳票が手書きでデータ化されていない状況もまだまだ残されています。

さらに、こうした状況を改善するための基盤やシステムを構築したとして、それを現場で実際にできるものとすることも大きな課題です。多くの現場では今のやり方に慣れており、そのやり方を変えるためには、それに見合ったメリットがなければやり方を変えようとはしそうもありません。システム利用に投資が必要となる場合はさらにハードルが高くなるといった具合です。こうした障害を改善するため、スマートフードチェーンプラットフォームでは、基盤にデータのコンバート機能を持たせる等、ひとつひとつの課題を解決するための地道な取組が進められています。

長らく手が付けられなかった難題に対して、なんとか課題や障害を乗り越える道筋が見えてきたのが現下の状況のように思います。

 

今日、システム改革に当たっては、個別機関のためのシステムの最適化から、WAGRI、スマートフードチェーンプラットフォームのように、様々な主体がかかわる社会システムの最適化へと対象が変化してきています。一定の方針に立った対処を行うことが可能な個別機関のためのシステムに比べて、関連主体を調整し、巻き込んでいく必要のある社会システムの最適化は、たいへん挑戦的な課題です。

また、こうした取り組みは海外諸国でも注力されており、我が国の競争力を支える基盤としての重要性も高まっているともいえるでしょう。新設されたデジタル庁のもとでICT政策が推進される好機を活かし、農業・食品分野でも社会システムとしてのDXが進むことに期待したいと思います。

 

WAGRIからスマートフードチェーンプラットフォームへ

出所)内閣府資料

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