地域分析のための統計整備 -ハフモデルの活用を通じて-

少々、ニッチな話題かもしれませんが、久しぶりに「ハフモデル(Huff Model)」を用いた商圏分析を行いました。あるプロジェクトの中で、東京大都市圏においてある駅周辺の開発を行った場合に、既存の中心市街地にどういう影響が及ぶのかを検討する必要があったのです。

いわゆる商圏モデルを最初に考案したのは、米国の経済学者W.J.ライリーで、1920年代に「A,Bの2つの都市があるとき,その間に位置するCから吸引する購買額の割合は,2つの都市の人口の比に比例し,距離の比の2乗に反比例する」ことを明らかにしました。さらに、P.D.コンバースは、2つの都市の規模の差が大きいときは2乗ではなく3乗に反比例すること等を通じて法則としての一般化に尽力しました(ライリー=コンバースの法則)。

ハフモデルは、この考え方を居住地区と商業中心との関係として整理し、「ある地域に住む消費者が,ある商業集積での購入確率は,商業集積の売場面積の規模に比例し,そこに到達する時間距離のλ乗に反比例する」と整理したモデルです。1960年代にD.L.ハフによって定式化されました。

我が国では、1980年代に通商産業省(現在の経済産業省)が、我が国の状況を踏まえた「修正ハフモデル」として紹介したことから、商圏分析の標準的な手法として定着しました。実際、新たな商業開発を行う際に、人口分布や既存商業集積を踏まえて獲得可能な商圏人口や、商圏への影響を比較的簡便に明らかにすることができて便利です。最近は、手法を活用した商圏分析サービスも提供されているようです。

ただ、久しぶりに利用するために関連情報を収集する中で、ハフモデルを活用するための統計情報が得にくくなってしまっていることを知りました。商業集積地の売場面積を公表していた商業統計調査が、「公的統計の整備に関する基本的な計画(平成30年3月6日閣議決定)」における経済統計の体系的整備に関する要請に基づき、廃止されてしまったのです。

経済センサス-活動調査の中間年における経済構造統計に統合・再編されることになったということのようなのですが、新しい「経済構造統計」ではハフモデルによる商圏分析で必要な商業集積地ベースの売場面積や小売販売額を得ることができなくなってしまいました。商業関係者や地域計画の関係者からは不便になったという声のあることもわかりました。

経済統計の体系的整備は重要だと思うのですが、政府による地域分析情報システム(RESAS)の提供や、ビッグデータの活用などが一方で注力されており、地方創生に向けて、地域ベースの統計情報の重要性は、ますます高まっていると思います。

その意味で、きめ細かな地域分析に支障が生じてしまっている現状を考えると、廃止後の情報の取扱いに関する検討が不十分だったように思えます。また、商業統計が廃止されたとはいえ、経済センサスの原票から売場面積や小売販売額の情報が消えてしまったわけではないので、使いやすい形で改めて関連情報が提供されることを望みたいと思います。

 

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