カルテにおける“SOAP”について

患者の診療記録を意味する「カルテ」は医療用語ですが、他の分野でも診断記録を示す用語として用いられることがあります。

例えば、マーケティングの分野では「顧客カルテ」という用語が用よくいられています。製品やサービスを提供する企業と顧客の関係を医者と患者の関係に例え、顧客の嗜好や購買履歴、その他情報を蓄積することによって、適切な製品とサービスを顧客に提案することをめざすものです。

また、政策形成の分野でもカルテという用語を散見します。例えば、都市計画の分野では、地区計画制度が創設された1980年代に地区カルテの必要性が議論され、私自身数か所で作成作業に関わったことがあります。また、中小企業の診断を行う企業カルテや、農産品の流通に当たり、生産地の状況を「産地カルテ」と呼ぶ取組等、枚挙に暇がありません。

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ところで、最近、医療現場で用いられているカルテの記載にあたって、「SOAP」形式という記載方法がとられていることを知りました。具体的には、次の考え方で情報を整理することをいいます。

  • S(subjective):主観的情報(対象者が話した内容などから得られた情報)
    • (例)「少し息苦しい感じがする。痰を出そうとしても出ない」
  • O(objective): 客観的情報(診察や検査からなど得られたデータ等の情報)
    • (例)「バイタルサイン(血圧:122/64・脈拍:110 回/分・SpO2:94%、体温0℃)、聴診にて右肺下葉に雑音あり、吸引で粘度が高い痰が多量に引けた」
  • A(assessment): 評価(医師の診断や、OとSの内容を元に分析や解釈を行った総合的な評価) 
    • (例)「痰の貯留によって息苦しさを生じているが、自己排痰は困難。スムーズな排痰を促す必要あり」
  • P(plan): 計画(Aに基づいて決定した治療の方針・内容、生活指導など)
    • (例)「去痰薬の吸入、呼吸リハビリテーションの実施、体位ドレナージ」

調べてみたところ、“SOAP”は問題指向型システム(Problem Oriented System)としての医療を推進するために開発された考え方とのことです。

従来のカルテには「治療行為」しか記載されていなかったそうです。医師が治療行為を時間軸にそって記録するだけで、後で読んでもなぜこの治療法を選択したのかという根拠が記載されることはなく、根拠が曖昧でした。問題指向型システムでは、これを患者さんの問題点を中心に、その問題の解決をめざして診療するプロセスを記載するように変えました。その際の記載項目が“SOAP”です。

カルテに“SOAP”を適用することで、患者が抱える健康上の問題点や、医師・看護師の所見に基づく治療方針や、判断のプロセスを誰が見ても分かりやすく整理することが可能となります。これによって、さまざまな職種が関わる医療介護の現場で、関係者の情報の共有がスムーズに行えるようになるということです。

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医療カルテで用いられている“SOAP”の考え方は、医療以外の分野でも役立つと思います。特に、今日、重視されているエビデンスに基づく政策立案“EBPM(Evidence Based Policy Making)”の展開に当たっては、情報が主観的か、客観的かが大切なポイントだと思いました。

取り扱っている情報が本当に客観的な情報なのか、誰かの主観が入りこんでいないかの判別は、気を使いすぎることはありません。コンサルタントとして日々直面する問題解決に当たり、正しい判断を行うために、収集した情報の仕分けを行う際の基準として、覚えておきたい考え方だと思います。

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