SDGsと評価シンドローム

仕事で持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)を参照する必要に迫られることが増えています。17の目標から構成されるカラフルなSDGsのロゴもよく見かけます。朝日新聞や電通の調査によれば、国民の2人に一人以上がSDGsという言葉を認知しているそうです。

SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されている2030年までの国際目標。地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っており、17の目標(ゴール)・169のターゲットから構成され、国連統計委員会の検討のもとで、それを評価する247(重複を除くと231)のグローバル指標が定められています。

これらが世界的な目標として大切なことはよくわかります。ただ17も目標があると、すっと頭のなかに入ってきません。そのせいか、SDGsの大切さは理解していても、個別目標の内容は認知していなかったり、自分のかかわり方が意識できない人が多いように思います。まして169のターゲットや、247の評価指標を解説する資料をみていると、私自身くらくらしてきます。

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この多数の目標や指標にくらくらする感覚は、行政評価指標を検討していたころの感覚に近いように思います。1990年代の後半から2000年代初頭にかけて行政評価が重視され、様々な指標が考案されました。特に、地方自治体によっては、総合計画をベースとして、政策、施策、事業を対象とする包括的な指標体系が構築されました。数百の指標が設定されているケースも少なくありませんでした。

行政としては、多数の指標が設定されたことで精緻な評価体系が構築されたと胸を張るわけですが、その一方で指標の更新などの運用が目的化されてしまい、肝心の政策にどう生かすのかという視点がおろそかになってしまう場合も散見されました。こうしたケースでは、評価をなんのために行うのか、という問題意識が希薄化していたように思います。

当時は、この状態を「評価シンドローム」と呼んでいました。最近、SDGsにどう取り組むかで混乱している状況に出会うと、そのことを思い出し既視感を覚えます。

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当時、この問題の解決手段として効果を発揮したのが、戦略のコミュニケーションツールとしてのバランス・スコアカード(balanced scorecard)です。「顧客」「財務」「プロセス」「学習と成長」の枠組みのもとで戦略マップを作成し、フォーカスした戦略目標のもとでの組織マネジメントが目指されました。もともと民間企業を対象に開発されたマネジメントツールですが、公共分野でもノースカロライナ州のシャーロット市等、先行的な取組が紹介され、我が国でも取り組む自治体が輩出しました。

成功のポイントは選択と集中だと思います。「顧客」「財務」「プロセス」「学習と成長」という4つの枠組みのもとで戦略マップを作成する場合、それぞれの分野を構成するイベントはおおむね5つ以内に集約し、マップ全体で20以内にするようにしていました。当然、網羅性はなくなるわけですが、優先度の高い事項を絞り込むことで、目標の相互関係も整理することができましたし、目指すべき目標のメリハリをつけて、やるべきことをはっきりさせることができました。

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その時の経験から、自治体や企業等、特定の組織がSDGsに取り組む際は、17の目標それぞれに対する関与の仕方を明らかにするよりも、関与すべき目標の選択と集中を行うことが大切だと考えています。それぞれの目標が絡み合う場合もあるので、目配りは大切だとは思いますが、特定組織のリソースは限られているので、すべてに気を使っていると、有効な動きが取れなくなってしまうように思います。

もちろん社会全体としてのSDGsの進捗状況のフィードバックは大切だと思います。ただ、これはモニタリング機関の役割であり、個々の主体が17の目標すべてを均等に意識する必要はないのではないでしょうか。むしろ個々の主体には17の目標としっかり向き合い、貢献の仕方を意識するために、自らの活動のかかわりを踏まえた選択と集中に取り組んで欲しいと思います。

 

 

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