まちづくりと「ソーシャルキャピタル」

前橋市で、ちょっとびっくりするようなまちづくりの取組が進んでいます。

象徴するのがまちづくりのビジョン。「めぶく。」というのですが、もとになっている考え方は、アウディ、アディダスなどを手掛けたドイツのブランドコンサルティング企業KMSによる“where good things grow”という考え方だそうです。これをもとに前橋市出身の糸井重里氏が、翻案して生まれたビジョンです。抽象的ではありますが、“grow”という動きが感じられる素晴らしいコンセプトだと思います。

また、前橋市ではデザイン指針も、スローライフの拠点で一世を風靡した米国ポートランドの有名な都市設計事務所ZDF参画のもとで策定しています。

それにしても地方自治体が、外国のブランドコンサルティングファームや海外設計事務所に、ビジョンやデザイン策定指針の策定を委託るというのは異例中の異例です。

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こうした前橋市における地方都市では類をみない大掛かりな取組は、雑誌やウェブ記事で紹介されているように、前橋市出身で、地域活性化に向けて財団を設立した眼鏡JINSの田中仁社長の協力があって初めて可能となったものです。

ただ、田中仁氏ももともと地域活性化に興味を持っていたわけではなかったようです。転機となったのは、世界的なアントレプルナーとの交流の機会だったとか。ほとんどの参加者が出身地への貢献を語る中、話す材料を持っていなかったという経験を通じた気づきがあり、加えて地域で活性化に取り組む若手の建築家や、商店街関係者等との出会いの中でまちづくりの再生にも取り組むようになったといいます。

どうも前橋市には田中氏に限らず、人々の中にまちづくりへの強い共通意識が存在しているように思えます。例えば、2016年委策定された前橋ビジョンに共鳴し、「自分たちの街は自分たちでつくる」という精神のもと、企業家有志によって2017年には「太陽の会」が設立されてました。参画企業は、毎年純利益の1%か(最低額 100 万円)を前橋市のまちづくりのために寄付金として拠出するそうです。

また、先日馬場川通りで実施された社会実験のためのワークショップでも、取組に共感する多数の参加者が自発的に取組に関する根深な討議に参加し、社会実験計画を立案したそうです。地域を自分たちの手でよくしたいという思いは、地域住民の共通意識といってよいように思います。

地域コミュニティにおける人々の相互関係や結びつきが地域を動かしているわけで、パットナムが提唱した「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)」とはこうした状況を支える見えざる資産を示す概念だと得心がいきました。

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注目したいのは前橋市の取組が決して市内の関係者だけにクローズした取組ではないこと。むしろ国内外の有為な人材や組織を巻き込んで、「めぶく。」に象徴される動きを創り出していることです。

まちで活躍する人材育成の仕組みを創りだすとともに、外部人材のリクルーティングも積極的に推進しています。日本ではじめてまちづくりにSIB(ソーシャルインパクトボンド)を活用した官民連携事業の仕組みもこうした中で実現したものです。

今後、前橋市のまちなかでは、ジンズの本社の機能が移転する中で、個別店舗のリノベーションにとどまらず、馬場川沿道の整備や、、長年の懸案だった再開発事業等の面的整備が進むことにより、まちの姿が一新しそうです。

新しい機能が立地する中で、地域を動かす基盤としての「ソーシャルキャピタル」がどう機能し、どう変容していくのか、引き続き注目したいと思っています。

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