1兆円を超えた農林水産物・食品輸出額に思う

農林水産省によると、財務省貿易統計に基づく2021年の農林水産物・食品輸出額(確報値)は、前年比25.6%増の1兆2,385億円だそうです。2006年に政府が年間輸出額1兆円を目標と定めて以降、初めて1兆円を突破しました。私が農林水産品の輸出関連のプロジェクトに関わるようになったのが2006年度からだったこともあり、長年目標に掲げていた1兆円の達成に感慨を覚えました。

ここまで来たのは、政府が農林水産品の輸出に本気で取り組むようになり、「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」の実現に向けて、業界団体と連携してきめ細かな促進策を展開しているからだと思います。

「マーケットイン」の視点に立った輸出拡大に向けて、政府によって品目別の輸出目標が設定され、輸出事業者の支援、仕組みづくりという包括的な取組が展開されるようになり、農林水産物・食品輸出促進プロジェクト(GFP)による情報提供、セミナー開催等、輸出に取り組む産地の形成に向けて、過年度よりずっと充実した取組が展開されるようになりました。戦略のPDCAも継続的に行われています。

こうした取組の甲斐あって、今まで面倒な海外市場をわざわざ狙う必要はないという考え方が大勢を占めていた産地も、人口減少が進む日本市場の先行きとあいまって、ようやく重い腰を下ろしはじめたように思います。率先して輸出に取り組む産地が広がってきた状況に、2006年の状況を知る者として隔世の感を覚えます。

 

 

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ひとつ気になるのは、成果をあげつつある輸出拡大実行戦略に、バリューチェーンの構造改革を進めるために必須となるデジタル技術の活用、フードバリューチェーンのDX(デジタルトランスフォーメーション)が触れられていないことです。

輸出拡大戦略だけでなく、2020年に策定された「食料・農業・農村基本計画」を踏まえて、2021年3月に策定された「農業 DX 構想」でも、消費者ニーズを起点としたデータバリューチェーン構築プロジェクト、農産物流通効率化プロジェクト、食品流通におけるブロックチェーン活用プロジェクトが掲げられ、農業、食品分野におけるDXの必要性が強調されているものの、輸出分野への適用が明確になっておりません。

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一方、食の世界におけるデジタル化は急速に進行しつつあります。その端的な例が、2020年9月に米国食品医薬品局(FDA)が、2011年1月に制定した食品安全強化法(FSMA)に基づく「特定の食品のトレーサビリティに関する追加的な要件に関する規則案」です。

この規則案では、食中毒等が発生し、FDAが求めた場合、食品のサプライチェーン関係者は、KDEを24時間以内に電子的に処理可能なスプレッドシートとしてFDAに対して提出する必要があります。しかも米国内だけでなく、日本から米国に輸出される食品にも適用されるとのことです。

FDAは、デジタル技術を活用して一部の食品を対象とするトレーサビリティをすべての食品に対して実施するというビジョンを2020年7月に示しており、米国内では貿易分野を含むフードチェーンのデジタル化が急速に進んでいるようです。

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こうした中、我が国の農林水産業、食品分野の輸出分野で、かろうじてDXに関連する取組に言及しているのは、内閣府が所管する戦略イノベーション創造プログラム(SIP)で取り組まれている「スマートフードチェーン」です。こちらでは、生産から加工・流通・販売・消費・輸出に至るバリューチェーン(フードバリューチェーン)の最適化に向けて、「競争力・市場拡大」に向けた取組として、輸出が位置付けられています。

戦略・計画の文章からみる限り、まだ農林水産・食品分野では省庁部局によってDXに対する意識がちぐはぐな状況であり、重要性に対する認識がしっかり浸透していないように思います。2020年に2兆円、2030年には5兆円を目指す、次の輸出目標の実現に向けて、輸出分野でも「スマートフードチェーン」の構築を機にDXが進むことに期待したいと思います。

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