カチクラエリアのまちづくり-地場産業を活かすエコシステム-

コロナ禍の影響で3年ぶりにリアル開催された台東モノマチ2022を訪問してきました。モノマチが開催される御徒町、蔵前周辺の約2km四方の地区は、古くから職人が多く、装飾品やファッション雑貨、玩具などの産業が栄えてきました。デザビレの設立をきっかけに、新しいクリエイターが居住し、起業する拠点となり、最近では「カチクラエリア」と呼ばれています。

モノマチは、このものづくりのまち「カチクラエリア」の魅力を情報発信する代表的なイベントのひとつですが、その開催のきっかけともなった拠点施設がファッション/デザイン起業者向け創業支援施設「台東デザイナーズビレッジ(通称デザビレ)」です。2004年4月に、人口減少で閉鎖された旧小島小学校の校舎を活用して設立されました。

2000年代初頭の台東区では、ピーク時46万人の人口が15万人にまで減少し、公共施設の再編が避けて通れない課題でした。46校の小学校が26校にまで減少する中で、空いた校舎を利活用して、デザビレが生まれたそうです。

デザビレは、その後アクセサリーなどのデザイナーを目指す起業家の間では有名な施設となり、現在では入居倍率が6倍に達するそうで、台東区内で開業する卒業生も50件以上輩出しているとのことです。単なる人口減少に伴う遊休施設の活用にとどまらない、クリエイティブ産業が集積するカチクラエリアのエンジンになっているといってよいと思います。

また、アクセサリーや革細工など、クリエイティブとはいえ身近な産業で、規模もそれほど大きいとはいえませんが、カチクラエリアでは、デザビレを中核施設として、起業家を輩出するエコシステムがうまく形成されていることを実感しました。

 

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気になるのは、このカチクラエリアにおけるエコシステムがどのようにして形成されたのか、ということですが、古くから形成された関連産業の集積をベースとして、下記の要素が加わって有機的に連携することで持続可能性を獲得したように思います。

 

◆創業支援の拠点施設「台東デザイナーズビレッジ」

先述の通り、カチクラエリアにおいて、小学校跡地を活用してうまれた創業支援の拠点施設です。施設内の事務所数は:19室で、入居期間は:原則3年以内とされています。

入居企業に対しては、ファッション関連産業の分野で創業を目指し、自立しようとするデザイナーなどに対し、低額で使用できる事務所の提供やインキュベーションマネージャーによる指導・育成などハード・ソフトの両面から支援し、企業者としての成長・自立を促進しています。毎年入居者や卒業者の発表の場となる施設公開を行っており、実践的な販路開拓の場も提供しています。

 

◆台東区の開業支援制度

台東区では、拠点施設デザビレにおける起業支援に加えて、区内で開業する企業に対する助成度を設けています。

これは、区内で今後開業予定(または区内で開業後1年以内)の個人または法人を対象に資金をあっ旋し、区の融資制度を利用可能なすべての金融機関において、金利及び信用保証料を全額区が補助する制度です。デザビレで創業した起業家を区内に定着させる仕組みとして機能しています。

 

◆「モノマチ」を通じた横のつながりの強化

台東モノマチは、毎年開催されていたデザビレの施設公開とあわせたまちの活性化策として、インキュベーションマネージャー鈴木敦村長の呼びかけで、地元企業、商店街と連携する中で誕生したものづくりのまちのイベントです。2011年に第1回を開催し、当初は年に2回開催していましたが、現在では毎年5月に開催されています。

コロナ禍のもと、この2年間はウェブ開催となりましたが、回を追うごとに参加者が増え、延べ15万人が訪れるコミュニティに定着した集客イベントとなっています。また、普段、住民との接点があまりない工場の活動を市民に伝える場、業種を超えてエリアに立地する企業間のネットワークを形成する場として貴重な機会を提供しています。

 

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カチクラエリアのエコシステムは、台東区がはじめからすべてを計画して形成したというよりは、デザビレの活動を拡充する中で、創業支援制度の拡充やモノマチの形成を通じた横のつながりを形成することによって、徐々に形成されていったようです。15万人を集客するようになり、まちの魅力を広く発信する場としての「モノマチ」も、良いことづくめではなく、手間がかかりすぎて本業に支障を招くという批判が出たこともあり、その対策として協会組織を設立するなど、試行錯誤で仕組みを構築していったそうです。

まちの方向性を定めるために大きなビジョンと戦略が必要なことは言を俟ちませんが、機能するエコシステムを構築するためには、取組の検証を通じて修正を加えていくことも重要なことがわかります。

今日、地域活性化に向けて創業支援に取り組む地域が輩出しているように思います。ただスタートアップの支援機能やコワーキングスペースを新規設置するだけでは成果はうまれにくく、既存産業とも連携した機能するエコシステムが必要なことがわかっています。カチクラエリアは、こうしたクリエイティブ産業の集積に向けたエコシステムのモデルといってよく、現在の機能構成・仕組みだけでなく、形成プロセスからも学ぶことができると思います。

 

(マインズ・アイ代表取締役 名取雅彦)

 

 

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