分散型社会の展望

コロナ禍が進行する中で、企業の事業所配置や就業規則の見直しが着実に進行しているようです。特に注目されるのは、この7月からNTTグループの取組。勤務場所を「社員の自宅」と設定し、会社の通勤圏に居住する必要をなくしました。昨年9月に分散型ネットワーク社会に対応した「新たな経営スタイル」を発表したところですが、その内容が一歩進んだように思いました。

国内の主要グループ全社員が対象で、リモートワークを基本とする業務運営が可能な組織を「リモートスタンダード組織」とし、当該組織の社員を対象に適用するそうです(制度開始当初は主要会社本体社員の約5割程度が対象と想定)。勤務場所を社員の自宅にするという制度がどのように運用されるのか今後の動向も注目したいと思います。

これまでにも、電通、富士通、パソナ等、東京に集中するオフィスの売却や就業制度の見直しなどの取組を打ち出した企業が輩出しています。コロナ禍は、企業行動に確実に影響を与えたといってよいと思います。

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コロナ禍を機に企業立地のあり方や就業形態の見直しが進む中で、人口流動や、生活意識にも構造的な変化が生じています。

人口については、住民基本台帳に基づく人口移動によれば、2020年以降、東京圏への人口流入が大きく減少しました。特に、東京都については転入調査数が、2019年(83千人)⇒2020年(31千人)⇒2021年(5千人)と大きく減少し、年度の変わり目を除くと流出超過の月が多くなっています。

また、コロナ禍の発生以降、内閣府が実施している「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(2022年7月22日)によれば、地方居住への関心が2019年の調査開始以来、確実に増加し今年6月は34.2%となりました。特に、20歳代は50.9%と半数以上が関心を示すという結果です。2019年12月時点の32.1%と比べると大きく増加していることがわかります。これまで就学・就業時点で東京指向を示していた若者の就業意識が変化していることは注目してよいポイントのように思います。

この調査でもう一つ注目したいポイントは、働く上で重視するものとして、テレワーク経験者の場合「テレワークやフレックスタイムなど柔軟な働き方ができること」という回答が4割を占めていることです。就業者全体では17.6%にとどまっていますが、テレワーク経験者が拡大する中で、新しい働き方に対する意識が拡大していることが窺われます。

 

東京圏在住者の地方移住への関心

出所)「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」

 

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地方分散については、「デジタル田園都市国家構想」で推進されているデータセンターの地方分散の動きにも注目したいと思います。

情報化の進展は、オフィスに入居する業務機能を拡大させ、東京圏への集中を加速した要因になりました。東京にオフィス集中が進む中で、データセンターについても東京圏への集中が加速し、6割は東京圏というデータがあります。しかしここにきて、Society5.0の実現に向けたスマートシティの構築等、情報化に向けた取組が一層進展する中で、情報の過密と、レジリエンスの問題への対応から、デジタル基盤としてのデータセンターの地方分散が課題として取り上げられるようになりました。

こうした中で、経済産業省が1月にデータセンターと海底ケーブルの陸揚げ基地を分散化する意向を表明し、地方におけるデータ需要の拡大を期待して、データセンター地域拠点整備事業を展開。100以上の地方自治体が新しいデータセンターの設置に関心を示しました。

コロナ禍をきっかけとする新たな情報社会への動きが、業務面だけでなく、インフラ面でも進行している状況ですが、このことをきっかけに地方で新たな産業立地や雇用機会も拡大することが期待されます。

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こうしたトレンドをみると、これまで当たり前だった「集中型ネットワーク」に変わり、「分散型ネットワーク」の重要性と現実性が増しているように思います。政府によるインフラ整備、企業の事業所配置・就業形態の見直し、生活者意識の変化等、様々な主体による取組が相乗効果を呼び、「分散型ネットワーク」を前提とする社会システムが形成されていきそうです。

まだ不確定な要素は多々ありますが、次世代に向けた動きに取り残されないようにするためにも、一段とアンテナを高める必要があるように思います。

 

(株式会社マインズ・アイ 代表取締役 名取雅彦)

 

 

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