6月25日に2020年版の最新の産業連関表が公表されました。
産業連関表は、ある地域において1年間に行われた財・サービスの産業間の取引及び産業と家計、地域外、国外等との取引をまとめた一覧表。一番細かい基本分類は、〔行〕445部門×〔列〕391部門の膨大な表であり、なかなか扱いにくい表だと思いますが、対象地域の産業構造を包括的に把握することができる他に代えがたい統計資料です。原則として5年に1回公表される統計で2015年版以来となります。公表に時間がかかるのは、産業間の取引構造を様々な統計と調査を通じて整理する必要があるためです。
産業連県表を時系列でみると、モノやサービスの取引構造が徐々に変化していることおがわかります。例えば、投入係数の推移をみると、2011年から2020年にかけて、製造業に対する支出割合が減少し、情報通信、サービス関連の支出が増えていることを見て取れます。こうした動きは就業者数等の動向からもわかりますが、産業連関表をみることで、生産段階の取引構造でも確認できます。
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産業連関表は、2016年度から地方創生の推進に向けて、「まち・ひと・しごと創生基本方針2017」に地域の「稼ぐ力」という用語が掲載されたことで、それ以前よりも注目されるようになったと思います。
経済産業省による「RESAS」、環境省による「地域経済循環分析」や、都道府県からも産業立地や観光振興による分析ツールが提供され、利用するための環境が整備されたことも一因だと思います。特に、「RESAS」や「地域経済循環分析」ツールでは、市区町村のお金の流れ、産業間の取引関係なども簡単に可視化されるようになっています。市区町村ベースで検討できるようになったことで、地域計画やまちづくりの分野野関係者にとっても利用しやすくなりました。
筆者も、市区町村レベル、都道府県レベル、国レベルの経済波及効果を一覧で表示することができる、MICEの経済波及効果の推計ツールを開発したことがありますが、環境省のツールはより包括的な分析が可能な仕様となっており、最初にみてたいへん驚いたのを覚えています。
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産業連関表を利用するにあたっては、いくつかの留意点があります。ここでは2つあげたいと思います。
ひとつは、国民経済計算や地域経済計算統計との対象の捉え方の違い。
国民経済計算や地域経済計算が、付加価値を生産、分配及び支出面からとらえることに重点を置くのに対して、産業連関表は、財・サービスの流れ、すなわち実物的な「モノのフロー」面の実態を明らかにするものとして位置付けられています。そのため、産業連関表は同一事業所で複数の生産活動(アクティビティ)があれば、これを分割して捉えるアクティビティ・ベース(生産活動ベース)であるのに対して、国民経済計算では事業所ベースで分類しています。また、産業連関表は属地ベースであり、国民経済計算や地域経済計算における属人ベースの所得統計は含まれていません。家計外消費支出の扱いや自家部門の設定などの違いもあります。
もうひとつは、経済波及効果の見方。ある事業の生産誘発効果が大きいことは、生産額ベースみた波及の大きさは示すものの、付加価値ベースでみた経済効果の大きさを示すものではないということです。
実際、域外との取り引きがないものとして計算すると、付加価値ベースの誘発額は、最初に投入した金額と一致することがわかります。生産誘発効果が大きいことは影響を受ける経済活動の規模の大きさを示す指標とはなるものの、付加価値ベース効果は最初の直接効果に依存するということに留意する必要があるのです。
ただ、同じ金額の事業を行う場合でも、投下先の部門によって、影響をうける産業の構成や域外との取引構造が変わり、これによって誘発される雇用規模や税収は変わってきます。なので、経済効果を議論する際は生産誘発額の規模だけではなく、影響を受ける産業構成や、これに伴う付加価値、雇用への影響をあわせてみることが大切だといえます。産業連関表は、そうした要因分析を可能とする統計ツールなので、そのメリットを活かすことが望まれます。
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やや扱いがめんどうなところもある産業連関表ですが、経済の全体構造を理解するには他に代えがたい手段だと思います。これから都道府県、政令指定都市などの産業連関表も後進されて行くと思います。データに基づく政策判断を広めるためにも、その普及と有効活用に期待したいと思います。
株式会社マインズ・アイ
代表取締役 名取雅彦