歩行者優先のまちづくり ―パリ・ストラスブール周辺―

ヨーロッパでは各地で歩行者優先のまちづくりが進められています。先日訪れたパリでも印象的だったのは、自転車に乗る人が驚くほど増えていたことです。昨年まで街を席巻していたスケートボードが、自転車に取って代わられていました。フランスに住む次男によると、スケートボードのレンタルが禁止されたそうです。通勤時間帯には、アジアの都市のように二輪車の大群も見かけました。

「パリ・レスピール(Paris Respire)」というノーカーデーも実施されており、歩行者にやさしい街づくりが着実に進んでいるようです。シャンゼリゼ通り一帯でも、2030年に向けた大胆な緑化プロジェクトが進行中と聞きました。現職のアンヌ・イダルゴ市長が掲げた都市政策「車を使わず、徒歩と自転車で15分圏内で日常生活を送れる街づくり」によって、2020年6月に当選したことは記憶に新しいことです。当時は本当に実現できるのか疑問でしたが、2024年の目標年次を目前に、その具体化が進んでいることを実感しました。

図 15分都市の考え方

 


自転車や歩行者優先のまちづくりは、フランス北東部のドイツとの国境近くに位置するストラスブール周辺でも進展していました。ストラスブールは低床型トラムで知られていますが、1960年代に一度路面電車を廃止し、バス交通へと転換した時期がありました。その結果、車の利用が増え、美しい大聖堂がそびえる市街地も落ち着いて歩くことが難しくなったそうです。

その後、1990年代に入ると、ストラスブールは歴史的街並みを守るために環状道路を整備し、中心市街地から自動車交通を排除するゾーンを設けました。さらに、新しい公共交通手段として低床型の歩行者にやさしい「トラム」が導入され、郊外から中心部へのアクセスが改善し、街の活性化が進んだと言われています。今回の訪問でも、街歩きを楽しみ、改めて魅力的な歩行者空間が広がっていることを実感しました。

同様のトラムと歩行者優先の中心市街地整備の取り組みは、ストラスブール周辺のコルマールや、ドイツのフライブルクでも見られます。いずれも旧市街地が観光拠点となっています。

図 ストラスブールのトラム


一方で、すべての旧市街地が歩行者優先というわけではありません。ストラスブール南部にあるBarrという人口8,000人ほどの村を訪れた際、古い街の中心部にある石畳の上を頻繁に車が走り抜けていく光景を目にしました。この状況は、かつてストラスブールが抱えていた課題を彷彿とさせます。住宅の庭先に停められた車を見て、日本の地方都市のことも思い出しました。

人口が少ないためトラムの整備は難しいのかもしれませんが、自転車優先の表示もなく、歩行者優先のまちづくりに対する意識があまり感じられませんでした。


やはり歩行者優先のまちづくりを実現するには、地域としての意思決定が重要です。そのためには、多様な主体が協力し、地域として「課題発見力」「構想力」「実行力」「点検力」を備える必要があると思います。パリやストラスブール周辺の取り組みは、こうしたまちづくりの基本プロセスのモデルケースと言えるでしょう。

日本でも、最近はウォーカブルなまちづくりが各地で進められています。世界のモデルケースとなるような取り組みが、日本からも生まれることを期待しています。

 

株式会社マインズ・アイ
代表取締役 名取雅彦

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