まちづくりの当事者を増やす

東京都中小企業診断士協会まちづくり研究会が2022年9月に実施した調査によると、まちづくりに関心を持つ国民は約6割に上りますが、実際に積極的にまちづくり活動に取り組んでいる人はわずか8%にとどまっています。まちが持続可能であるためには、住む人々のまちへの関わりや愛着が必要不可欠です。しかし、調査結果は「関心」と「行動」の間に大きなギャップが存在する現実を示しています。

実は、約10年前に経済産業省が同様の設問で実施した調査でも同じような結果が出ていました。まちづくり活動に参加する人の割合は若干増加しているものの、「関心」と「行動」のギャップは縮まりにくい状況が続いています。

活動に参加できていない理由としては、参加のきっかけがない、どのような取り組みがあるかわからない、仕事が忙しく時間が取れない、などの回答が多く見られます。ただし、ほとんどの人は課題が解決されれば参加したいという意向を示しています。まちづくりへの敷居を下げ、関心を行動に移す人を増やすことが課題と言えます。

本稿では、こうした課題に対してヒントを与える取り組みとして、愛知県岡崎市と東京都中央区日本橋浜町の事例をご紹介します。


愛知県岡崎市のQURUWA戦略

愛知県岡崎市では、近年QURUWA戦略によるまちづくりの取り組みが注目を集めています。QURUWA戦略とは、公共空間を活用した公民連携プロジェクトを実施し、かつて賑わっていた乙川リバーフロント地区内の拠点を結ぶ主要動線の回遊を実現。これにより、まちの活性化(暮らしの質の向上・エリアの価値向上)を図る戦略です。QURUWAという名称は、主要動線が岡崎城跡の「総曲輪」の一部と重なり、動線が「Q」の字に見えることから名付けられました。

QURUWA戦略の特徴として以下の点をあげることができます。

  1. 公共空間の活用: 河川空間や公園などの公共空間を単に整備するだけでなく、それを契機に市民がエリアの価値向上に向けた取り組みに参画。
  2. 市民の主体的参加: 実際に訪れた市民からは、様々なイベントに主体的に参加し、「楽しい」という声が多数聞かれました。
  3. 多様なまちづくり会社の連携: 岡崎まち育てセンター・りた、まちづくり岡崎、Qネクストという都市再生法人3社と、リノベーションを手掛ける家守2社の合計5つのまちづくり会社が、市や自治体、自治会と連携。

岡崎市の「QURUWA戦略」に関する公表資料によれば、2019年から2021年の間に公共空間が活用された日数は725日、新規出店は27店舗でした。最近では公共空間の利用と新規出店がさらに加速しており、その効果が数値指標にも現れています。

公民連携の取り組みのきっかけは、当初の公共施設整備の実施に際し、岡崎まち育てセンター・りたという公民連携を推進する中間法人を巻き込んだことです。ワークショップを重ねる中で、まちづくりに参加したい人々に参加のきっかけを提供し、体験を通じて参加意識が広がりました。こうした動きを持続的な取り組みに結びつけるために、様々な機会が提供されています。イベントやリノベーションされた建物の活用に加え、軒下やボックスショップといった新しい個店づくりが進められ、起業・創業への敷居を低くする工夫がなされています。


東京都中央区日本橋浜町の取り組み

もう一つの事例は、大手ディベロッパーの安田不動産が東京都中央区日本橋浜町で展開している取り組みです。隣接する日本橋人形町と共に、東京有数の「粋な街」として多くの人々に愛されていますが、東京都心部としてはややアクセスしにくい立地条件にあります。この中で、開発エリアとしてのまちの価値向上に向け、ハード整備とともに街への愛着醸成が進められています。

愛着情勢向上の取り組みを推進しているのは、一般社団法人日本橋浜町エリアマネジメントです。安田不動産が浜町マルシェなどを開催する中で、日本橋浜町界隈をより魅力的なまちにしようという企業の共感を得て、2020年4月に設立されました。まちづくり組織として、各種プロジェクトの企画・運営を担当し、地元の町会・商店会・企業・住民と連携しながら、まちの交流促進、プロモーション、環境整備など多様な活動を精力的に行っています。

まちづくりに参加されている方は、事業主体としてまちで事業を行う方が中心ですが、まちの清掃活動にも積極的に参加しており、活動の場としてのまちを大切にしています。主体的に街の環境整備に関わることが自らのビジネスにもつながるという意識が根付いているようです。


共通点と課題

岡崎市と日本橋浜町の取り組みは、立地環境が大きく異なりますが、いずれも多様な主体の参加を推進し、エリア価値の向上を実現した好例です。二つの事例の共通点として注目したいのは、地域の事業者や居住者に対して参加のきっかけを企画・提供するまちづくり会社が積極的に活動している点です。冒頭に紹介したアンケート調査結果が示すように、多くの人はまちづくりに関心を持ちながらも、参加のきっかけが見つかっていません。潜在的な意識を行動に結びつけるきっかけをうまく作り出す役割として、まちづくり会社がうまく機能しているのではないかと考えられます。

もう一つ注目したいのは、まちでの起業を促進し、新規出店の機会を増やしている点です。両地域の事例を見て、まちづくりへの参画を持続的に展開するためには、事業主体としての参加が重要であると改めて感じました。生活や仕事の基盤として街が位置づくことにより、従来の商店街とは異なる形で生業と一体となった都市空間が形成されているようです。岡崎市における軒下やボックスショップといった敷居の低い機会の提供は、非常に大きな意義を持っています。

エリア価値の向上、エリアが存在する地域の活性化に向けて、まちづくりに対する参加機会の創出と、起業促進を絡めた新しいビジネスコミュニティの育成に期待したいと思います。

 

           出所)まちづくりに関する意識調査(まちづくり研究会2022年9月実施)

 

株式会社マインズ・アイ

代表取締役 名取雅彦

 

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