無限の猿定理とAIの創造性 

無限の猿定理(The infinite monkey theorem)は、無限の猿が無限の時間をかけてランダムに文字を入力し続ければ、いつかはシェイクスピアの作品などの特定の文字列を生成する可能性があるという考え方です。極めて低い確率の事象でも、試行回数が無限に増えれば実現する可能性があることを示しています。

このような考え方は古くからあり、例えば、スウィフトの『ガリヴァー旅行記』(1726)には、ガリヴァーがバルニバービに立ち寄った際に「どんな無知な人間でも〔…〕立派に哲学や詩や政治や法律や数学や神学に関する書物が書ける」というふれこみの装置(ザ・エンジン)を見学するくだりがあります。この比喩は、無限の可能性を象徴するものと考えられます。


しかし、2024年にシドニー工科大学の2人の学者が発表した研究によれば、無限の猿定理が現実的にはほぼ不可能であることが示されました。具体的には、チンパンジーの寿命を約30年、宇宙の寿命を10の100乗年後と仮定し、チンパンジーの個体数を最大20万匹と設定した上で、猿がシェイクスピアの作品を生成する確率を計算しました。

その結果、チンパンジーが一生のうちに特定の文字列(例えば「Bananas」)をタイプする確率はわずか5%であることが判明しました。さらに、シェイクスピアの作品を完全に再現するためには膨大な試行回数が必要であり、現実的にはその試行が行われる前に宇宙が滅びる可能性が高いとされました。この結論は、無限の猿定理が理論的には成立するものの、実際の宇宙や生物の条件下では実現不可能であることを示唆しています。


一方、近年飛躍的に進化している生成AIは、機械学習アルゴリズムを用いて新しいコンテンツ(テキスト、画像、音楽など)を生成する技術であり、大量のデータを学習し、そのパターンを理解することで、創造的な出力を可能にしています。無限の猿定理は完全にランダムな試行を前提としていますが、生成AIは過去のデータから学習し、特定のルールやパターンに基づいて出力を生成することで、文章生成の可能性を広げています。

特に、自然言語処理や生成モデルにおいて広く使用されている「トランスフォーマー」と呼ばれるアーキテクチャでは、モデルのサイズ(パラメータ数)やデータセットの規模を拡大することで、性能が指数関数的に向上することが示されています。AIは、偶然性に頼ることの限界を超え、より効率的に創造性を発揮する手段となり得るでしょう。


2025年は、人間が介在せずとも一定の意思決定を行い、行動を実行する「AIエージェント」が注目を集めており、引き続き生成AIが社会の変化を加速させる要因となることは間違いないでしょう。AIの普及により、私が携わるコンサルティング分野にも大きな影響が及ぶと考えられます。例えば、経営分析・診断、レポーティング・文書化といった業務の一部は、ある程度自動化が可能になる一方で、人間同士の信頼構築や意思決定においては、引き続き人間の介在が不可欠とされています。

生成AIがもたらす未来を見据え、中長期的な視点を持って業務革新や事業革新に取り組むことの重要性を強く感じています。

株式会社マインズ・アイ
代表取締役 名取雅彦

 

参考:A numerical evaluation of the Finite Monkeys Theorem

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