レシートがたまらなくなった理由 ― リアルタイムプロセッシングとナウキャスティング

最近、クレジットカードで買い物をした際、決済情報がすぐにスマートフォンのアプリに届くようになってきたことに、ふと気がつきました。以前はレシートをためておかねばならず、後から明細と照合するのが面倒でしたが、最近は決済後すぐに明細に反映されるため、確認もスムーズです。

そのうち、店舗系列やカードの種類によって反映までの時間に差のあることに気づきました。特に、Suicaと紐づくルミネカード(ビューカード)で買い物をしたときには反映が早いようです。実はこのような変化や違いの裏側には、「リアルタイムプロセッシング(即時処理)」という決済基盤の技術進化があり、その採用状況が差を生んでいたのです。 

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これまで、私たちのカード決済情報は「バッチ処理」という方式で、一括して夜間に処理されていました。つまり、今日の売上情報は翌日にならないと処理されなかったのです。さらに明細に反映されるまでには数段階のプロセスがあり、時には数週間を必要としていました。

ところが今、VisaNet Next GenやMastercard Networkといったグローバル決済ネットワークはリアルタイム処理に完全対応。国内でもCAFISなどが即時処理に対応し、「決済 → 売上確定 → 情報送信 → 明細反映」というプロセスが早ければ数時間で完了するようになりました。

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このリアルタイム処理は、私たち個人の利便性だけにとどまりません。たとえば、政府の統計や経済予測。従来のGDP速報や小売統計は、収集から発表までに時間がかかり、現状をリアルタイムで把握するのは困難でした。

そこに登場するのが「ナウキャスティング(Nowcasting)」と呼ばれる技術です。これは、リアルタイムに得られたデータから、ごく短期間の将来の経済状態を即時に予測する手法です。例えば、内閣府では景気判断へのGDPナウキャストの活用が研究されています。

最新の取引情報や購買動向がそのまま経済の「今」を映し出す鏡になるのです。

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欧米諸国と比較して、日本ではまだキャッシュレス決済の普及率が低く、リアルタイムデータを活用したナウキャスティングの本格活用もこれからです。しかし、だからこそ伸びしろは大きく、より便利で安心な社会を実現する余地があります。

私たちがレシート整理から解放されたように、気づかないところでテクノロジーは生活を変えています。レジ横の「ピッ」という音の裏にある変化に、少しでも目を向けることで、社会の進化を身近に感じられるのではないでしょうか。

 

株式会社マインズ・アイ 代表取締役 名取雅彦

 

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