まちづくりの変遷と今日的意義 ~多様化した「まちづくり」の本質を考える~

近年、「まちづくり」という言葉は多様な場面で用いられていますが、その捉え方は一様ではなく、定義が曖昧なまま使用されていることが少なくありません。本稿では、まちづくりの歴史を振り返ることで、その本質を再確認し、現代のまちづくりに求められる姿を改めて確認したいと思います。

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◆まちづくりの黎明期
「まちづくり」という言葉が文献に初めて登場したのは1952年です。社会歴史学者である増田四郎博士が、雑誌『都市問題』において「新しい町つくり」と表現したのが始まりでした。当時は高度経済成長期の序盤であり、政府主導の画一的な都市政策への反発として、地域共同体に根ざした自治のあり方が求められていました。博士は、ヨーロッパとの比較を通じて、日本の取組に対して問題提起を行いました。

その後、1960年代後半には、大都市圏を中心に宅地開発と人口増加が急速に進み、公共施設整備による財政負担が課題となりました。このような中、一定規模以上の宅地開発に対して、市町村への協議や公共施設整備を義務付ける「指導要綱」が各地で制定されるようになりました。
1971年には旧自治省が、地域住民組織を基盤に生活環境を整備する「モデル・コミュニティ事業」を開始し、ハードとソフトを一体で進めるコミュニティ政策が本格化しました。

こうした流れを受け、1980年に都市計画法に地区計画制度が創設され、都市計画にもボトムアップ型の視点が取り込まれるようになりました。これを契機に、「神戸市地区計画及びまちづくり協定等に関する条例」(1981年)や「世田谷区街づくり条例」(1982年)など、住民参加による居住環境整備を進める条例が各地で制定されました。ちょうど私が大学で都市計画を学んでいた時期であり、地区計画制度の議論が活発に行われていたことを思い出します。

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◆商業振興としてのまちづくり
1980年代に入ると、まちづくりは商業振興の文脈でも注目されるようになりました。契機は、1983年に政府が公表した「80年代流通産業ビジョン」です。このビジョンでは、小売業は地域文化の担い手であり、地域生活に根ざした重要な存在であると位置付けられました。

これを受けて、旭川市の買物公園化を皮切りに、中小小売業による自主的なまちづくりを支援する「コミュニティ・マート構想」が誕生しました。川越市でのまちづくり会社設立の取組も続きました。地域経済社会と調和した小売業の発展を目指し、商業近代化計画が都市計画に反映され、都市計画当局と連携した商業政策が推進されました。

その後、商業振興の取組は、日米貿易摩擦の激化を背景に、商業活動調整協議会の廃止など規制緩和が進み、1991年には建設省・通産省・自治省の三省が共同で所管する特定商業集積整備法が制定されました。さらに、1998年には中心市街地活性化法および改正都市計画法が公布され、いわゆる「まちづくり三法」が成立し、商業を中心としたまちづくりの制度基盤が整えられました。この時期、「まちづくり三法」という言葉が国会審議でも頻繁に用いられ、まちづくりは商業振興政策と強く結びつくようになりました。

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◆多様化するまちづくり
2000年代に入ると、地方分権一括法の制定により、自治体の裁量権が拡大し、住民参加のもとで自主的・自立的なまちづくりや土地利用規制が積極的に行われるようになりました。「まちづくり条例」の制定が全国で進み、安全・安心、福祉・健康、文化・スポーツ、人権尊重、男女共同参画といった様々な分野で「まちづくり」を冠した条例が登場しました。

国の政策も、総務省、国土交通省、経済産業省に加え、厚生労働省、警察庁、文部科学省、環境省、農林水産省といった多くの省庁が横断的に展開するようになり、「〇〇」×「まちづくり」という組み合わせが急増しました。

具体的には、「観光まちづくり」「アートのまちづくり」「歴史まちづくり」「交通まちづくり」「かわまちづくり」「防災まちづくり」「防犯まちづくり」「健康・福祉のまちづくり」「スポーツによるまちづくり」「食のまちづくり」「農のあるまちづくり」など、多様なまちづくり施策が全国各地で展開されています。

こうした背景から、今日では「まちづくり」という言葉が多義的な概念となり、用いる主体によって全く異なる内容を指す場合が増えてきました。その結果、現場ではまちづくりの目的や手段が曖昧なまま進められ、形骸化や断片的な取組に陥るリスクが顕在化しています。

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◆まちづくりの再定義
私自身、コンサルティングの現場で「まちづくり」の定義を尋ねられたり、曖昧で使いにくい概念だと指摘される場面に数多く出会ってきました。しかし、歴史を振り返ると明らかなように、まちづくりの本質は「ボトムアップ」と「総合性」に基づく課題解決にあります。この原点は、現在でも変わらないと考えます。

加えて、まちづくりは、関係者が連携し、問題の発見、解決策の構想・実施・点検といったPDCAサイクルを継続的に実践することが求められます。単なる制度や事業の寄せ集めではなく、地域の課題を本質から見つめ、誰が、誰と、どのように解決していくのかを明確にする必要があります。私は、「まちづくり」とは 「多様な主体のパートナーシップによる地域課題の解決」 であると再定義したいと考えています。

本稿を通じて、「まちづくり」の本質が多様な主体による課題解決にあることを改めて確認しました。今後のまちづくりにおいては、①地域課題の本質を見極めること、②多様な主体の対話と協働の場を意図的に設計すること、③持続的なPDCAサイクルを運用することが重要です。この3点を踏まえた、実効性あるまちづくりをともに推進していくべきだと思います。

まちづくりが地域の未来をともに創り上げるプロセスであり続けるよう、私自身も引き続き、その推進に貢献していきたいと考えています。

 

株式会社マインズ・アイ
代表取締役 名取雅彦

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