Garbage In, Garbage Out ―国勢調査人口水増し疑惑から考えるEBPM―

Garbage In, Garbage Out ― ゴミ袋が漏斗から歯車の機械に入り、出口からゴミの山となって出てくる図。統計の信頼性はEBPMの大前提

◆基幹統計で起きた「人口水増し」疑惑

最近、目に留まった新聞記事のひとつが、富山市の国勢調査をめぐる「人口水増し」疑惑です。人口減少が進むなか、多くの自治体が人口減少への対応に頭を悩ませています。そうしたなかで、富山市が2025年国勢調査で人口を実態より多く計上していた疑いが明らかになりました。

報道によれば、居住実態がないとして調査員が抹消した世帯を戻したり、偽の調査票を作成したりするなどして、少なくとも2,000人以上を水増しした疑いがあるといいます。総務省は統計法違反の疑いで市職員を刑事告発しており、国勢調査をめぐる告発は初めてのことだそうです。富山市は、この人口の水増しによって、地方交付税を本来より約6,000万円多く受領したと試算しています。

◆「そこに住んでいる人を数える」統計の重み

この記事を目にしたとき、正直なところ、自分の目を疑いました。国勢調査といえば、国の基幹統計のなかでも、とりわけ基本となる統計のひとつです。日本に住むすべての人と世帯を対象として5年に一度実施され、その結果は国や地方自治体の政策形成だけでなく、民間企業や研究機関でも幅広く利用されています。

私自身、都市・地域計画のコンサルタントとして仕事をするなかで、国勢調査には数え切れないほどお世話になってきました。人口や世帯数はもちろん、年齢構成、就業状況、通勤・通学流動など、地域の現状を把握する際の出発点となるデータです。

GDPや景気動向指数などの経済統計では、推計方法や季節調整などによって数値が変化することがあります。一方、国勢調査人口は、基本的には「そこに住んでいる人を数える」という、極めて基礎的な統計です。それだけに、その調査過程に行政側の意図的な操作が入り込んだ疑いが生じたことの意味は重いといえます。

◆なぜ水増しが行われたのか

しかも、今回の問題には不思議なところがあります。人口が多く計上されれば、自治体として地方交付税などで一定のメリットを受ける可能性があります。しかし、担当職員個人に直接的な利益があるとは考えにくいでしょう。それでは、なぜこのような行為が行われたのでしょうか。組織として人口減少を少しでも小さく見せたいという意識があったのか、調査実務上の何らかの事情があったのか。現時点では捜査中であり、今後の原因究明を待つ必要があります。

富山市といえば、都市計画に関わる者にとっては、コンパクトシティ政策の先進都市として知られた存在です。公共交通を軸として都市機能や居住を誘導する「コンパクト・プラス・ネットワーク」の代表的な事例として、これまで国の資料などでも繰り返し紹介されてきました。近年では、GISやIoTなどを活用したデータ駆動型のまちづくりにも取り組み、EBPMを志向する自治体でもあります。

だからこそ、その富山市で、政策形成の最も基礎となる人口統計の信頼を揺るがす疑惑が生じたことには、何ともいえない皮肉を感じます。

◆EBPMの大前提

近年、地方創生をはじめとする行政政策では、EBPM(Evidence-Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)の重要性が繰り返し指摘されています。経験や勘だけに頼るのではなく、客観的なデータによって地域の課題を把握し、政策を立案し、その効果を検証していこうという考え方です。以前、「EBPMにみるインフォメーションとインテリジェンス」(2018年)でも、統計を政策判断に生かすことの難しさについて書いたことがあります。

しかし、EBPMには大前提があります。Evidenceとして使うデータそのものが信頼できることです。データに基づいて精緻な分析を行っても、入力となる基礎統計そのものが恣意的に操作されていれば、政策判断の土台が崩れてしまいます。いわばEBPMにおける「Garbage In, Garbage Out」の問題です。

人口減少が進むこれからの日本では、限られた財源をどこに投入するのか、政策の効果が本当にあったのかを検証する必要性は、これまで以上に高まります。その意味でも、行政統計への信頼は社会の重要なインフラのひとつだと思います。

◆統計行政への信頼を再構築する契機に

今回の問題については、まず事実関係と原因を徹底して明らかにしてほしいところです。そのうえで、個人の倫理だけに依存するのではなく、データ作成プロセスのチェック、原票から集計までのトレーサビリティ、異常値の検知、第三者による検証など、統計の信頼性を制度的に担保する仕組みを改めて検討する必要があるのではないでしょうか。

せっかく行政の現場に根付きつつあるEBPMの流れを後退させないためにも、今回の問題を、統計行政への信頼を再構築する契機にしてほしいと思います。

株式会社マインズ・アイ

代表取締役 名取雅彦

参考: テレビ朝日系(ANN)「富山市の国勢調査で人口水増し疑惑 担当幹部を異動 地方交付金約6千万円多く受領」(2026年10月2日配信)

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