事業所立地の税収効果 -テレワークによって期待される再分配-

弊社の事業年度は5月決算なので、毎年、6月に会計ソフトの力を借りて自力で決算処理を行っています。申告のためにけっこう埋めるべき表があり複雑ですが、アプリの力を借りると意外と簡単にできてしまいます。AIが普及したら真っ先に代わる業務に税理士・会計士が上がっているのも当然の感がありました。

ところが、今年は1月1日付で本社を港区から鎌倉市に移転したこともあり、ことはそう簡単ではありませんでした。会計ソフトで算出した結果と移転前、移転後の自治体で積算した申告があわず、悪戦苦闘することに。地方税の納税先を規定する分割基準を正しく理解できていなかったのです。

 

分割基準とは、複数の都道府県に事務所等を有する企業が、所得などの課税標準の総額を一定の基準で都道府県別に分割するための基準のことをいい、分割した課税標準額に税率を乗じることで各都道府県に納めるべき税額を算定することができます。そして、弊社のように事業所を移転した場合も、これと同じ考え方で課税標準額を移転前後で分割して納税額を計算します。

分割基準は、業種、税目別に異なっています。業種については、法人事業税の場合、製造業では従業者の数で分割しますが、非製造業では事業所の数と従業者の数を用いて分割します。さらに、倉庫業・ガス供給業は有形固定資産の価額で分割するといった具合です。また、法人住民税は従業者の数で分割されます。

ちなみに、弊社は非製造業なので、法人事業税の分割基準は、事業所の数と従業者の数となっています。これは課税標準額の半分は事業所の数で分割し、残りの半分は従業者の数で分割するということです。事業所の数は年度内の各月末の事業所数のことをいい、1事業所を年内で12事業所と数えます。従業者の数は、年度末の事業所数×従業者数を計算し、端数を切り上げた数をいいます。

ここに書いただけでも複雑なことはご理解いただけるのではないかと思います。各都道府県が発行しているガイドには図表付きで丁寧に説明されているのですが、要領も悪く、正しく調書(第10号様式)を埋めるために、税務署に問い合わせたりと、思いのほか時間をとってしまいました。

 

ただ、苦労しながらも自分で調書を埋めてみて、事業所移転の税務効果をきちんと理解することができました。これまでコンピュータセンター等、従業員がいな事業所の場合はあまり地域に対する効果がないという話をする経営者もいて、それを鵜呑みにしてきたのですが、これは製造業の場合のこと。非製造業の場合は、2分の1は事業所数で分割されるわけで、従業者数が少ないコンピュータセンターであっても、立地地域にそれなりの税収効果をもたらすことがわかりました。

情報サービス業等、非製造業の場合、これからテレワークが普及し、もし地方への事業所立地が進めば、雇用効果に加えてある程度の税収効果も期待できるということだと思います。地方税の分割基準が従業員割だけだと思っていたことの不明を恥じつつ、新たな可能性を実感することができました。

 

最近の報道を見ていると、大手企業もオフィスの在り方を見直す動きが出てきているようです。テレワークによる在宅勤務やサテライト勤務が浸透すれば、東京都心のような地価の高い場所にオフィスを構える必要はないわけです。テレワークを活用することによって、これまでよりもスリムなオフィス形態を導入することによって、大きな財務効果が得られるはずです。

そして、こうしたオフィス再編の動きを通じて、郊外部や地方都市における事業所立地が進めば税収上の効果も小さくないといえそうです。ただ、そのためには郊外部、地方都市における事業所の立地を促進する必要はありますが・・・。

とはいえテレワークの普及を通じた地域振興の可能性はありそうです。地方創生の推進手段として一層の注力が望まれます。

 

 

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