まちの「面的価値」の創出と活用に向けて

秋に承認された第2次補正予算では、秋に策定された総合経済対策を受けて、円安メリットを生かしたインバウンド(訪日外国人旅行者)の回復など「日本の稼ぐ力を強化する取組」が推進されることになりました。

これをうけて、経済産業省では、「面的地域価値の向上・消費創出事業」を展開するそうです。これはコロナ禍における来街者ニーズの多様化や、足元の円安メリットを活かしたインバウンドの回復等に着目し、商店街等が自らの魅力・地域資源等を用いて実施する滞留・交流区間整備や消費創出事業を支援する取組とのこと。

国土交通省が取組む観光振興とも連携し、コロナ禍で失われた5兆円のインバウンド需要を復活させるとともに、国内観光やイベント需要の喚起、文化芸術・スポーツの振興等によりコロナ禍からの需要回復、地域経済の活性化が目指されています。

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こうした取組に関連して注目したいのは、補助事業につけられた「面的地域価値」という名称。個々の商店や単体の旅館では創出できないエリアとしての価値を意味しているように思います。

実は、2007年頃にも、地域力再生機構の中間とりまとめや、金融審議会金融部会の報告書等で、「面的再生」という用語が使われていた時期がありました。地域再生を実現するためには、「点」としての個社だけでなく、地域の関連企業や地域資源の活用、地方公共団体との連携などを組み込んだ「面」的な広がりをもった再生が必要との認識が示されていたのです。

なぜ個社としての百貨店や旅館単体の事業再生が難しいのかというと、中心市街地も温泉地域も、個社は立地地域における様々な機能や機能集積が生み出している「まち」の魅力という公共財の恩恵を受けているからです。つまり個社がいくら頑張っても地域全体の魅力という公共財としての地域の魅力を高めなければ、個社としての発展も難しいということです。

今回の補助事業もこのような観点に立って、改めて「面」としての地域の価値の創出をねらうものだと思います。コロナ禍が進行し、三密が避けられるようになる中で、注目度が下がった「まち」の価値を見直す良い機会になるのではないかと期待しています。

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当時の議論を思い出すのは、まちの面的価値を高めるためには、個別の事業を推進する個社と、まちの面的な価値の向上に取り組むまちづくり会社等の取組をうまく連携させることが重要だということです。個社の株主は企業経営のみに目が行きがちで、まちづくり会社や自治体は企業経営に対する目配りができないことが多かったように思います。

当時と比べると官民連携に対する理解が深まっているとは思いますが、両者の隙間を埋めて連携させることは依然として重要な課題だと思います。当時は、適切なディレクションや調整を担うプロデューサー人材の重要性を強調したものですが、ここにきて連携のための仕組みづくりが合わせて大切だと感じています。

最近、こうした取組として面白いと思ったのは、名古屋の錦二丁目エリアプラットホームN2/LAB。まちづくり会社が事務局となって、名古屋市や地区内の地縁組織を中心とした地域会員、協力いただく企業や団体などの事業会員、今後様々なプログラムでの連携を予定している連携会員、様々な分野の専門知識を有する特別会員をメンバーとして、新しい技術やアイデアを積極的に活用し、この地区から新しい「くらし」「しごと」を作る挑戦を進めようとしています。

プロデューサー人材を登用するだけでなく、対象地区をフィールドとして、課題解決に資するプラットフォームを構築したところが注目点だと思います。中心市街地活性化協議会等の地域内の調整機関を固定に運営するだけでなく、地域外にも目を向けた仕組みづくりやネットワーク活用を行うことに可能性を感じます。

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依然としてコロナ禍は続いていますが、最近は商店街や観光地における人通りも回復し、withコロナのライフスタイルもだいぶ定着しています。3年間我慢を強いられてきただけに、交流に対する潜在的なニーズも高まっていると感じます。

新しい視点にたった「面的価値」の創造と活用に向けた取組が、今後の地域再生の大きなきっかけになることに期待したいと思います。

株式会社マインズ・アイ 代表取締役 名取雅彦

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