「ソーシャルイン」

社会課題の解決に向けたアプローチとして「ソーシャルイン」という考え方があります。マーケティングでよく目にする「マーケットイン」と似たような考え方といえますが、社会課題の解決に当たっては、特有の特性を考慮する必要のあることを思い起こさせてくれます。

「ソーシャルイン」について書く前に、まず「マーケットイン」について振り返っておきましょう。マーケットインとは、企業が生産・販売活動をする際に,消費者のニーズを満たす製品であることを最優先する考え方のことです。よく商品開発や生産、販売活動を行う上で、買い手(顧客)のニーズよりも企業側の理論を優先させる「プロダクトアウト」とセットで用いられます。1980年代の日本で、製品の供給量が需要量を上回る状況のもとで、「消費者がより必要とするモノを提供する」と考える経営者が増える中で定着したといわれています。

ただ、2000年代に入って、iphoneやウォークマン等、消費者が思ってもみなかった革新的な商品が登場し、それに伴って市場ニーズが変化するという状況の中で、プロダクトアウトよりマーケティング印の方が優れているという二者択一的な考え方は淘汰されました。

今では、プロダクトアウトにしてもマーケットインにしても、大切なのは表面的な顧客ニーズではなく、潜在的なニーズを含めて本当に顧客が求めているものを生み出すことであり、ここに価値の源泉があると考えられるようになっています。

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「ソーシャルイン」という用語が出てきたのも、表面的な「マーケットイン」という考え方に対するアンチテーゼの意味合いがあるように思います。社会課題の場合は、対象とする課題が社会的に当たり前と捉えられているような場合も多く、生活者のニーズが顕在化していない場合が多いからです。表面的な市場ニーズをみて、ニーズはないと判断してしまうと、本当にあるべき姿を見失うという状況が生まれかねないというわけです。

例えば、最近、関わった農産物流通の場合でいうと、紙の伝票が今でも使われていて非効率を招いています。政府がDXの必要性を強調していますが、現場の生産者や卸売関係者は現在の状況に慣れてしまっていて、頭では問題を理解してくれても、なかなか動こうとはしてくれません。むしろ日常の業務に追われる現場担当者から、そんな手間はかけられないと一蹴されてしまう場合もあるのです。

こうした経験をすると、社会課題として現状を克服するためには、こうした現場担当者にも理解してもらえるように、十分に考えてアプローチすることの大切さを実感します。

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こうした状況から、社会課題の解決に向けた実際のアプローチとしては、解決策の有効性を検証するための実証作業や社会実験という試行的なアプローチがとられる場合が多いように思います。課題解決のためのソリューション案を立案したうえで、関係者に実際に参加してもらい、ソリューションに対する意見を集約するのです。役立つということが判明したら、逐次、問題個所を改善して実効性を高めるというアプローチです。

実は、社会実装や社会実験にたどり着くまでにもステップがあり、まずは課題をきちんと定義することが出発点です(ここで意外と苦労します)。大きな流れを整理すると、「課題の定義⇒解決策の構想⇒解決策の検証⇒解決策の改善⇒社会実装」となります。

ソーシャルインに当たっては、特に課題の定義と解決策の構想、解決策の検証の段階で、関係者の意識・意向を把握し、解決策に反映していくことが求められます。関係者の意識・意向を踏まえて解決策を検討する際は、構想力を発揮して社会変革を誘導するような「プロダクトアウト」的な発想をすることも大切だと思います。

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我が国は課題先進国と呼ばれ、少子高齢化への対応等、社会的に解決すべき課題を多数抱えているといわれています。繰り返しになってしまいますが、課題解決に当たっては、表面的な関係者のニーズではなく、関係者の真のニーズを見極めて、本来のあるべき姿を見据えることが大切です。

こうした規範を思い起こさせるキーワードとして、社会課題の解決に向かう際は「ソーシャルイン」を心掛けたいと思っています。

(株式会社マインズ・アイ代表取締役 名取雅彦)

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