フードチェーン情報公表JASの制定に思う

去る3月30日にSIP第2期の一環で2019年4月から取り組んできたフードチェーン情報公表農産物(通称フードチェーン情報公表JAS)が、正式な規格として制定されました。農産物を「産品(もの)」ベースで流通プロセスを認証するという、これまでにないJAS規格です。

これまでも有機JAS規格、生産情報公表JAS規格等、産品(もの)ベースで生産段階の取組を認証する規格はありました。しかし、生産後の流通プロセスを対象とする規格は存在していませんでした。もちろん小口保冷輸送等、事業者を対象とする認証はあるのですが、産品(もの)ベースではないため、トレーサビリティの保証はできなかったのです。

事業者ベースではなく、ものベースで認証することによって、消費者が手に取った商品がホンモノであること、きちんとした条件で流通した商品であることを証明し、関連情報をみることができます。今回の規格制定を通じて、食の安全性、食材に対する品質に対する関心が高まる中で、やっと求められる課題を解決することができたように思います。

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消費者から求められていたにも関わらず、なぜこれまで産品(もの)ベースの認証が行われてこなかったのかというと、生産者、卸売、仲卸、小売と、一般的には複数の事業者が連携して業務を担っている「流通行程」を通した認証が技術的に難しかったからということに尽きると思います。

トレーサビリティや、流通品質を保証するためには、識別番号が付された輸送単位ごとに状態を把握する必要があるわけですが、流通業界の電子化は遅れており、複数の事業者間の情報連携を行える状態ではとてもありませんでした。

今回のフードチェーン情報公表SIPで統一的な識別コードの体系と、ukabisという流通行程を一気通貫する情報連携基盤が整備されたことで、やっと可能になったといえます。その意味で、今回のJAS規格の制定は、情報連携基盤の構築を通じて、社会的な仕組みの変革をもたらす一種のDX(Digital transformation)の取組といってよいと思います。

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DXを成功させるために大切なことは、単にデジタル化を進めるだけでなく、それとあわせて機能する仕組みを構築することだと思います。今回のJAS規格の検討でも、流通行程の関係者に農産物流通の現場におけるトレーサビリティや品質保証の必要性を理解してもらい、情報連携基盤を用いた新しい仕組みを一緒に考えてもらうことが必須の条件でした。

ただし、日々の業務に追われる現場では、現状の仕組みを変えることには大きな抵抗が存在しています。新しい技術が紹介されても、自分ゴトと考えないメンタリティがまん延している状況では、新しい技術の可能性に目を向けることも、DXを機能させることも難しいと思います。

今回のJAS規格のケースに限らず、変革に対する抵抗に出会うことは少なくありません。新しい技術の可能性を拓くために、社会的な受容性をどう高めていくか、引き続き検討してみたいと思っています。

 

マインズ・アイ 代表取締役 名取雅彦

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