農林水産物・食品の輸出に向けた最近の動向

12月5日に公表された10月時点の農林水産物・食品の輸出額(1~10月)は、1兆1,664億円で昨年同時期を455億円上回りました。8月の東京電力福島第1原子力発電所のALPS処理水の放水以降、中国が日本産水産物の輸入禁止となったことの逆風を考慮すると、の農林水産物・食品全体の輸出としては、まずまずの実績だと思います。

10月の輸出額をみると、増加が多かったのは、ソース混合調味料、ビール、緑茶で、米国、韓国、チリを中心に増加しました。輸出額の減少が大きかったのはホタテ貝、ウィスキー、なまこ(調整品)で、中国、香港、台湾を中心に減少しました。特に、ホタテ貝は中国、台湾を中心に76億円と大きく減少しており、ALPS処理水放水の影響の大きさがわかります。

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一方で、農林水産物・食品全体の輸出実績は伸びており、様々な新しい取組が輩出してきています。こうした事業者の取組の代表例として、12月13日に「輸出に取り組む優良事業者表彰」の表彰式が開催されました。ちょうど政治的な混乱時期と重なってしまい、注目を浴びにくかったように思いますが、農林水産大臣賞、輸出・国際局長賞に選ばれた事業者の取組は注目に値すると思います。

農林水産大臣賞には、株式会社木内酒造1823(日本産クラフトビール輸出のフロントランナー)、株式会社クボタ(現地精米で美味しいお米のバリューチェーンを再構築)、濱田酒造株式会社(「世界に冠たる酒へ」国際事業戦略構築と基盤強化)、株式会社ナンチク(お客に寄り添った教育と個別要望対応で輸出増)が選ばれました。

いずれも興味深い取組ですが、中でもクボタの玄米輸出+現地精米の取組は、米のこれからを考えるうえでたいへん示唆に富む取組だと思います。まず我が国の米市場における位置づけですが、2022年までに累計3万tを輸出しており、現在は日本の総輸出量の21%を占めるそうです。米は自給率を達成している数少ない産品であり、国内需要が減少する中で、海外需要の増加に寄与するという点で注目に値します。

また需要を拡大するために、玄米輸出+現地精米というバリューチェーンを実現したことも注目点です。米は温度、湿度、カビの影響を受けやすい産品で品質を維持するためには適正な管理が必要です。この管理ができていなかったために、これまでアジアでは日本の米はまずいという評価が定着していたというお話をお伺いして、マーケットインの視点に立った取組の重要性に気づきました。

日本でも、ちょうどフードチェーン情報公表農産物のJAS規格として米の規格案の申出が行われており、流通の改革が進む可能性があります。流通改革を推進することによって、高い品質を活かした輸出拡大をぜひリードして欲しいと思います。

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マーケットインという点では、クボタ以外にも、海外向けにあるコード度数が高い焼酎「DAIYAME40」を開発し世界三大酒類コンペティションで部門最高金賞を受賞した濱田酒造、国によって異なるカットニーズに応えるとともに、食べられていない部位の需要創出に取り組むナンチク等の興味深い取組がありました。

また木内酒造1823は、茨城県産品にこだわって地元で生産された大麦からモルトを生産する等、原材料を内製化することで高い品質と付加価値向上を実現した素晴らしい取組です。国別に異なるニーズにも対応しています。ちなみに社名の1823は設立年だそうで100年企業の節目の受賞となりました。

国内でハラルの牛肉輸出可能施設を設立したにし阿波ビーフ、海外の富裕層向けに最高価格125万円の日本酒を提供する新沢醸造店等、輸出・国際局長賞やその他の取組も注目すべき点が多々ありました。ご関心がある方は農水省のHPをぜひご覧ください。

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当面の日本の輸出目標は2025年2兆円であり、まだだいぶ高い目標水準ですが、世界的にも日本の食に対する評価は高まっていることから、コロナ禍の沈静化で更なる伸びが期待できるのではないかと思います。

輸出拡大を実現するために、中国等の禁輸措置の見直し等、外交的な働きかけは必須といえますが、あわせて事業者の世界を見据えた新しい取組に期待したいと思います。GFP等により輸出に対する理解は徐々に広まっているように思います。個々の事業者の創意工夫と、それを日本ブランドとして後押しするための仕組みをいっそう拡充することに期待したいと思います。

 

株式会社マインズ・アイ 代表取締役 名取雅彦

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