社会システムとしてのエコシステム

エコシステム(ecosystem)はもともと、生態系を示す用語ですが、1990年代からシリコンバレー等をモデルとして、IT業界を中心にビジネスの世界でも使用されるようになりました。複数の企業が商品開発や事業活動などでパートナーシップを組み、互いの技術や資本を生かしながら、開発業者・代理店・販売店・宣伝媒体、さらには消費者や社会を巻き込み、業界の枠や国境を超えて広く共存共栄していく仕組みということができます。

iphone、iPadの生産に当たり、部品の製造や組み立て、販売を行う多くのパートナー企業と連携し、組み立てに特化したAppleが代表例としてあげられます。

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さらに、最近では、政府や地方自治体が公的な政策として、「エコシステム」の形成を推進しています。我が国できっかけとなったのは、内閣府が推進する「スタートアップ・エコシステム」で、2019年の「Beyond Limits. Unlock Our Potential.世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略」の公表です。戦略の公表をきっかけとして、スタートアップ・エコシステム拠点都市として、グローバル拠点都市4か所、水浸拠点都市4か所を指定しています。

この取組のモデルのひとつは、パリにスタートアップの一大ハブ「ステーションF」を開設した、フランスの取組ではないかと思います。

フランスでは、公的研究機関・高等教育機関によるインキュベーション施設の設立や所属する研究者による起業を認めた1999年のイノベーション・研究法の制定をきっかけとして、インキュベーション施設の整備が推進され、2013年から「フレンチテック」を推進し、国内13都市を「メトロポール・フレンチテック」として拠点化しました。民間アクセラレーターの資本増強を目的とする2億ユーロの「アクセラレーション基金」の設立もあわせて推進されました。

成果について、フランスデジタル庁の活動報告書2015-2016年版によれば、2015年のフランスでスタートアップ起業数は2012年比30%増加しました。30歳未満の若者の新規起業数も、経済・財務省の企業総局の2017年の報告書によれば、2006年から2015年にかけての10年間で4万3,000件から13万1,000件に増加したそうです。

日本のスタートアップ・エコシステムは、こうした取組を下敷きにして推進されているように感じます。

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また、公的な主体によるエコシステムの取組対象は、スタートアップ振興に限らず、農業振興やまちづくりの分野にも拡大しています。

例えば、ブラジルでは政府、農業系エコシステム情報のポータルサイト「アグリ・ハブ・ブラジル」を公開し、農業生産者の技術革新やアグリテックの振興を推進しています。また、日本でも京都市では「協働 イノベーション エコシステム」として、「企業、大学、NPO・まちづくり団体、行政などが相互作用することで、イノベーション(社会課題への新たな解決策や行動、発想など)が連鎖的に生み出されていくネットワークや場」の創造を目指しています。

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これらの仕組みは公共的な性格を持つサービスを、様々な主体の連携の中で実現可能とする取組であり、新しい社会システム構築の在り方として注目したいと思います。一方、過去のモデル事業の経験を踏まえると、公共団体が過度に関与しすぎると、補助金頼みになってしまうことも懸念されるように思います。

社会システム全体の運営を担うオーガナイザーのあり方も含めて、本来の生態系のように自律性を備えて持続可能なシステム構築に期待したいと思います。

 

株式会社マインズ・アイ代表取締役 名取雅彦          

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