SDGsと観光

先日、JICAから「観光を通じた持続可能な開発目標(SDGS)の達成 -観光プロジェクトのための指標ツールキット(TIPs)-」という冊子が公開されました。独立行政法人国際協力機構(JICA)と国連世界観光機関(UNWTO)の共同プロジェクトとして、多様な分野とかかわる観光の特性に着目して、関連するSDGsの達成状況を評価するための指標の設定方法を整理したレポートです。

「持続可能な開発目標(SDGS)の達成 観光プロジェクトのための指標ツールキット(TIPs)」

2015年に国連に採択された持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)は、17のゴール、169のターゲットから構成されています。「観光」は次の3つのゴールのもとで、ターゲットととして取り上げられています。

ゴール8「働きがいも経済成長も」 ターゲット8.9: 2030年までに、雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する。
ゴール12「つくる責任、つかう責任」 ターゲット12.b: 雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業に対して持続可能な開発がもたらす影響を測定する手法を開発・導入する。
ゴール14「海の豊かさを守ろう」 ターゲット14.7: 2030年までに、漁業、水産養殖及び観光の持続可能な管理などを通じ、小島嶼開発途上国及び後発開発途上国の海洋資源の持続的な利用による経済的便益を増大させる。

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この記述から、観光開発には有形・無形の文化遺産や自然環境に配慮しながら、地域の雇用や収入を生み出し、各地域の持続可能な発展のための推進力となることが期待されていることがわかります。ただ観光の記述があるのが3つのゴールであることから観光が関関係するSDGsはこの3つという誤解が生まれてしまいました。現実の観光の効果がこれらの3つのゴールに限られないということは、誰しも感じるところだと思います。実際、2017年に中国で開催された第22回UN Tourism(国連世界観光機関)の総会でも観光開発が先の3つだけでなく、17のすべてのSDGsに関連する可能性があることが確認されています。ただそれぞれのゴールに対して具体的にどのような形でかかわっているのかまでは、示されませんでした。

先程の報告書では、こうした背景のもとで観光分野が17の目標に対してどのような係わりがあるか、具体的な取組を推進するためには、それをどのような考え方にたって指標化すればよいかが整理されています。特に注目したいのは、17のゴールごとに他のゴールとの係わりを示す関係図「ビジュアルエイド」です。この図をみると、様々な観光の取組がSDGsとどのように関係しているか、直感的にわかります。

図表  ビジュアルエイド ゴール8

出所)「持続可能な開発目標(SDGS)の達成 観光プロジェクトのための指標ツールキット(TIPs)」(JICA, 2024)

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SDGsの認知度はますます高まっており、消費者の購買行動にも反映されるようになってきています。2023年5月に公表された電通「SDGsに関する生活者調査」では、初めて[SDGs]という言葉に対する認知度が9割を超えました。また、朝日新聞の調査によれば、SDGsに沿った商品か、SDGs活動に熱心な企業のサービスかどうかを購入や利用の際に「考慮したい」という回答が36.3%に達しています。さらに商品やサービスの価格が「高くても」「やや高い程度なら」購入・利用するという回答が全体の23.9%と約4分の1を占めました。

これらの調査結果から社会貢献滑動に対する姿勢を示すことは、企業自身や、その商品・サービスの訴求力を高めるうえで大きな意味を持っているということがわかります。さらに企業が社会貢献に対する積極的な姿勢を示すことの意義も窺われます。

そしてこのことは、これまでどちらかというSDGsの取組が遅れていたといわれる観光業界にも当てはまるはずです。2021年にJTBの調査によれば、中小企業が多い、旅行業界はSDGsに取組むと回答した事業者の割合が16%と産業界では最低でしたが、消費者のSDGsに対する問題意識の高まりの中で、企業の姿勢がますます問われるようになると思います。

出所)朝日新聞「第9回SDGs認知度調査」

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冒頭に紹介したJICAの報告書は、こうした環境変化のもとで観光関連の企業がSDGsに向けた姿勢を示すうえで役にたちそうです。ヒントを得られるということもありますが、観光が関わるSDGsはゴール8、12、14関連という固定的な認識に対して、そんなことはなく多様な貢献の仕方があるということを広く関係者に対してアピールできるからです。

コロナ禍が終焉し、国内観光・インバウンド観光が急速に回復する中で、外貨の獲得手段として観光が果たす役割はますます高まると思います。それだけに、観光とSDGsとの関係に対する見方を広げるためのテクストとして、広く活用されることを望みたいと思います。

株式会社マインズ・アイ 代表取締役 名取雅彦

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