文化庁の京都移転に思う

3月27日に文化庁が京都に移転し、業務を開始しました。今回の移転は長官を含めて、主要機能を京都に移すことから、先行して徳島に地方拠点を構えた消費者庁、和歌山に地方拠点を構えた総務省統計局とは異なり、初の「全面移転」と報じられました。

今回の文化庁を含む、中央省庁の機能の地方移転は、2014年の地方創生で打ち出された目玉事業であり、2015年度に自治体から募集した提案を踏まえて決定されたものです。3月27日には、移転先の旧府警本館等で70人が業務を開始。連休中に他の職員が移転して5課390人体制となり、東京の4課200人とあわせた2拠点体制となりますが、主要機能が移転する初のケースとして大きく取り上げられました。

今回の移転については、全面移転とはいっても移転範囲が限られている、物理的に移転しただけ等の批判もありますが、先行的なモデルケースが実現したことを評価したいと思います。

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実は、首都機能の移転を東京一極集中の是正に向けて、中央省庁など首都機能の移転を行うという議論はかねてから行われてきました。特に、1990年11月7日には衆参両院で「国会等の移転に関する決議」が決議され、これを受けて1992年に「国会等の移転に関する法律」が制定され、3か所の移転候補地が選定されるところまで議論が進んだことがあります。

当時の移転決議では、「わが国の現状は、政治、経済、文化等の中枢機能が首都東京へ集中した結果、人口の過密、地価の異常な高騰、良好な生活環境の欠如、災害時における都市機能の麻痺等を生ぜしめるとともに、地域経済の停滞や過疎地域を拡大させるなど、さまざまな問題を発生させている。これら国土全般にわたって生じた歪を是正するための基本的対応策として一極集中を排除し、さらに、二十一世紀にふさわしい政治・行政機能を確立するため、国会及び政府機能の移転を行うべきである。」と述べられていますが、現在と同じ問題意識に立っていたことがわかります。

ただ、国会等の移転に関する法律では3か所の移転候補地を選択した後で、東京と比較検討した上で移転の是非を決めることになっていましたが、90年代末から社会経済が低迷する中で、検討作業がとまってしまいました。

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大都市に集中する機能の分散政策としての首都機能移転の取組は我が国だけでなく、海外でも取り組まれています。代表的な事例としては、英国、スウェーデン等の取組で、政府の一部機能を地方に分散させる分都という形式をとって推進されました。また、韓国では、ソウルの一極集中是正に向けて、国のほぼ中央部に世宗(セジョン)市という行政複合中心都市の整備が推進されています。

大都市の過密対策として、首都機能移転が取組まれるのは、国家機能が求心力の大きい業務機能を担っていることに加えて、立地誘導が必要な民間の事業所とは異なり、政府として自ら移転を計画、推進できるからだと思われます。言葉を変えていうと、移転することにより、移転先への関連機能の立地誘導を進める基盤機能としての役割を果たすことができるということです。

その意味で、今回の文化庁移転も、地方分散に向けた政府がとりえる具体的なアクションを行ったと評価したいと思います。

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課題は、移転した機能がきちんと機能するような環境整備を行うこと、関連機能の分散を促進することのように思います。東京都の小池知事から「事務所がフリーアドレスになっていないし、ただ物理的に移転しただけという印象だ」と指摘を受けているようですが、デジタル田園都市国家構想でDXが積極的に推進されている中でのこの状態は残念です。

また、東京一極集中是正のためには、将来的には本省移転も検討課題のように思います。週2回の閣議があるのに大臣を地方に移すのは難しいということはありますが、ベルリン・ボンの2拠点体制をとる国もありますし、将来的に閣議の開催形態を変えていくことも視野に置くことが可能だと思います。

今回の移転をきっかけにして、分散型の国土形成に向けた動きが促進されることと、そうした中での業務運営の革新に期待したいと思います。

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