人口移動調査にみる郊外化・地方分散のトレンド

先日、公表された住民基本台帳住民移動調査報告では、東京都への転入超過者数が5,433人と、昨年の31,125人から大幅に減少しました。

特に、東京都特別区部では、外国人を含む集計を開始した2014年以降初めての転出超過となりました。また日本人のみについてみると、1996年以来25年ぶりの転出超過(1996年は6742人の転出超過)ということで、このことはちょっとした驚きでした。テレビ局各社がこのことをニュースで伝えていました。

流出した人口の受け皿となっているのは、神奈川県、埼玉県、千葉県等で、東京の郊外部です。東京都が減少しているのに対して、これら3県は増加傾向を示しています。

もう少しマクロな視点から東京圏の転入超過数をみると、12ヵ月移動平均が2020年に大きく減少しています。進学、就学の3月4月は転入超過であるものの、その他の時期は概ねバランスし、転出超過の月も出てきています。大きな変化は2021年に入って収まり微増に転じていること、流出傾向は昨年6月から沈静していることから、この先どうなるか判然としないところはありますが、国土の姿が変曲点を迎えたといってよさそうです。

 

 

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東京都心からの人口移動の要因は、コロナ禍とこれに伴うテレワークの普及だと思われます。業務形態の変化が人口分散を推し進めたといってよいでしょう。

端的な例が富士通。オフィス出社率を25%に抑えていましたが、オフィスの在り方を見直し、3年でオフィス面積を半減させる計画を進めています。配属地以外での遠隔勤務を認め、単身赴任の解消につなげるなど、最適な働き方の実現、社内カルチャーの変革にも取り組んでいるようです。

また、千代田区に本社を構える人材派遣会社パソナは、兵庫県の淡路島へ本社機能の一部移転を公表しています。現在は、淡路市の複合文化リゾート施設を活用し、2020年末で約500人が勤務中なのですが、2024年(令和6年)5月までに、東京本社で勤務するグループ約1,800人のうち約1,200人を島へ異動させると公表しています。前橋市に第2本社を設立する眼鏡のJINZ等、同様の動きが広がってきていることも注目したいと思います。

こうしたコロナに伴う社会構造の変化のメカニズムと今後のまちづくりのあり方については、昨年度末に公表した東京都中小企業診断士協会まちづくり研究会から発行した「アフターコロナのまちづくり-中心市街地活性化2.0-」に詳しくとりまとめました。今回の人口移動報告をみて、この提言で予想した社会の構造変化が着実に進行しているとの確信を深めることができました。

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ただし今後のトレンドについてはまだ見方が割れているようです。地方分散のトレンドが進行するとみる識者がいる一方で、2021年になって東京圏の転入超過数の移動平均が微増に転じたためからかもしれないのですが、東京からの人口分散については、コロナ禍が収まればもとに戻るという見方をとる識者もいます。

とはいうものの、私は東京23区については減少が続いていることに加え、企業が本社のあり方や就業形態の見直しに着手していることを考慮すると、コロナ禍の終焉後、多少のより戻しはあるにしても、完全に元に戻ることはないと思います。

むしろ、富士通やパソナのように、コロナ禍を機にDXとオフィス分散を進め新しい就業形態の創造に着手している企業が輩出していることに着目すべきだと思います。オフィス賃料の負担減、多様な人材の確保と、企業経営の面からもこれまでのあり方を見直す理由がはっきりしつつあるからです。

人口移動調査の結果に表れているように、少なくとも東京圏の中での分散化は着実に進行しておりますし、企業経営の考え方が変わっていることを踏まえれば、現在の郊外化の動きは今後も着実に進行すると予想できます。地方部でも長野県のように人口移動がバランスしつつある都道府県が出てきており、こうした地域が転入超過に転じる可能性も否定できないと思うのです。

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むしろここにきて気になるのは、今回の変化が新たな地域格差のきっかけになるかもしれないという見方です。就業の場や居住地が変化する中で、うまくトレンドに対応できた地域は成長のきっかけをつかめるかもしれないが、対応できなかった地域は一層の停滞を余儀なくされる可能性があると思います。

言葉を変えていうならば、これからの社会構造変化の展望と適切な対応をとるかどうかで、地域の状態が変わってくるということです。

地域計画のコンサルタントとして駆け出しだったころ、大先輩から「活性化」っていうけど、どういうことか説明してみろ、と禅問答のように聞かれたことを思い出しています。

答えは「変化への対応力」でした。このことを肝に銘じたいと思います。

 

 

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