グローバル・フードバリューチェーン(GFVC)

この12月に農水省から公表された、「グローバル・フードバリューチェーン構築推進プラン」について紹介したいと思います。グローバル・フードバリューチェーン(GFVC)の構築は、途上国・新興国を中心に我が国食産業の海外展開に向けた取組で、「グローバル・フードバリューチェーン戦略」(2016年)に基づき官民連携による精力的な取組が展開されてきました。2020年度5兆円という目標を前倒しで達成したこともあると思いますが、食品産業の海外展開を加速化していくために、新たなプランが策定されました。

プランに興味を持った点を、3点ほど紹介したいと思います。

 

ひとつは、海外進出を行っている国を、①日本企業の進出が進んでいない地域、②日本企業の進出が一定程度進んでいる地域、③日本企業の進出が進出済みの地域にタイプ分けし、それぞれの国の特性に応じたきめ細かな展開戦略が検討されている点です。

このうち、ASEAN、中国、 豪州等、多くの企業が進出済みの地域では、事業の安定化・より一層の発展のため、日本型の規格・基準等の普及の推進が謳われています。規格・基準による販路開拓は、ISO、HCCP、GAP等、長く欧米の後塵を拝している感がありましたが、最近になって、こうした世界基準とも連携しつつ、GI(地理的表示)保護制度や、JAS制度の見直し等、独自の規格・基準作りが推進されています。我が国も攻めの姿勢に転じつつあることを評価したいと思います。

 

 

ふたつめは、「輸出と投資の一体的促進」という観点です。農林水産物・食品を単に「モノ」として輸出するだけではなく、FVC構築を伴う現地生産・加工、店舗展開等の企業の海外展開(投資)と一体的に推進することが有効だとしています。私も従来から主張してまいりましたが、我が国の農林水産業や食品産業の稼ぐ力を強化するためには、バリューチェーンの視点を持つことによって、全体でより大きな付加価値を生み出し、バリューチェーンを構成する生産者、製造業者、流通業者、消費者により大きな付加価値をもたらすようにすることが重要です。

GFVCで注目すべきだと思われるのは、こうしたバリューチェーンを国内だけでなく、海外投資として展開することです。食品産業、日本経済の発展のためには、成熟化が進む国内市場から海外市場に目を向ける必要があること、その際はフローとしての輸出だけでなく、海外投資を通じた持続的な収益基盤の構築が重要であると改めて認識しました。

農林水産物の輸出については、この10月に農産品輸出に関する業務の一元化を図る農林水産物・食品輸出促進法案が閣議決定され、来春には農林水産省に関連省庁間の調整役となる「司令塔」が設置され、農産品輸出の企画・立案のほか、これまで縦割りで各省庁が独自に行っていた輸出向けの加工施設の認定や、日本産食品の輸入規制に関する交渉などが一体的に推進される見込みです。あくまで輸出のための司令塔ではありますが、ぜひGFVCの視点ももって推進してもらいたいと思います。

 

3つめは、スマート農業技術の海外展開です。プランで指摘されているように、スマート農業を実践できる農地は広く国外に存在しています。こうした農地に、農業データ連携基盤(WAGRI)に代表されるわが国のスマート農業技術を適用することによって、海外の様々な農産物生産の課題解決に貢献できる可能性があると思います。

また、生産~消費に至る「モノ」の動きと連動したFVC全体のデータ活用・連携を確立することができれば、農業生産や食品加工に留まらない多様なビジネス機会の創出が可能になるはずです。そのためには、現在、戦略イノベーションプログラム第2期(SIP2)で取り組まれている「スマートフードチェーン」の構築を海外も含めて展開していくことが望まれます。

GFVCの構築の視点からみると、現在は輸出を視野において進められているスマートフードチェーンを、将来的には海外投資を視野においたプラットフォームとして機能させることが課題といえるでしょう。

 

官民連携で、新技術も活用してグローバル市場の獲得をねらう「グローバル・フードバリューチェーン構築推進プラン」は、最近の政府報告書の中でも腹に落ち、参考になる点が多々ありました。この分野に関心を持つ人には一読をお勧めしたいと思います。

 

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