R3+PDCA

2010年頃から地域活性化へのアプローチとして、「R+PDCA」が大切という話をよくしています。“R”は、もともとrealize(認識)の頭文字を示すものと説明していましたが、research(調査)、 reflect(熟考)、 realize(現状認識)というプロセスを考慮して、最近は「R+PDCA」と説明しています。

まちづくりの分野でも当たり前となったマネジメントサイクル「PDCA(Plan-Do-Check-Action)」の前に“R”を付け加えているわけですが、なぜ付け加えたのかというと、これは集団としての課題解決が大切なまちづくりの場合、マネジメントサイクルを構築する前工程にひと手間も二手間もかかる場合が多いからです。むしろPDCAの前提となるPlan(計画)を策定するために、どのようにして現状を認識し、関係者の合意形成を行うかということのほうが、大きな課題であるようにも思うのです。

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例えば、中小企業庁調査でPDCAを実施できている商店街の例として紹介されている長野県佐久市の岩村田商店街の場合、商店街としてPDCAまでできるようになるまでには、1999年のイオンモールの出店等をきっかけとする商店街の内部対立、役員の世代交代、集客するも商売に結び付かなかったイベント事業の失敗、若手経営者6人の経営塾への参加と長い道のりがありました。

活動を理事長としてリードした岩村田本町商店街振興組合の阿部眞一会長によれば、イベント事業に失敗し、最初に門をたたいた中小企業診断士に「お前たちは経営者になれない」と叱責された経験もあったといいます。こうした経験を踏まえて経営修行を積む中で、何が問題でどのような商店街にしていくべきかを模索し、「地域密着顧客創造型商店街」という将来像をあきらかにし、その実現に向けた商店街経営ができるようになったそうです。

このお話をお伺いして、これはまさに商店街全体としてのresearch(調査)、 reflect(熟考)、 realize(現状認識)のプロセスだと思いました。

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岩村田商店街は、その後も、地域住民が自由に使えるコミュニティスペース「おいでなん処」「本町おかず市場」「本町手仕事村」「岩村田寺子屋塾」「佐久っ子WAON」「高校生チャレンジショップ」「子育てお助け村」等、全国を先導する新しい取組を次々と構想、具体化していったわけですが、こうした事業ベースの取組についても、現状認識を出発点とするR+PDCAの枠組みで捉えることが可能です。

例えば、地域密着顧客創造商店街の具体化に当たっては、商店街がターゲットとする半径300mの範囲の住民属性を確認しています。また2009年に開設した商店街直営の学習塾「岩村田寺子屋塾」は、子育て世代を対象とした商店街会員に対するアンケート調査を通じたニーズ把握を踏まえて、開設したものです。調査結果を踏まえて、熟考し、地域で子ども見守ることの重要性を確認し、学習支援を商店街で行うという、全国初の取組を実施するところまで踏み込みました。

大胆な計画を立案するための前提条件として、人口減少化での子育ての重要性に対する厳しい現状認識があったことに注目したいと思います。

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岩村田商店街の例にとどまらず、全国的な成功事例と呼ばれる取組は、基本的に目指すべき将来像やコンセプトが明確で、その方向に沿った事業展開が行われています。業績評価が行われている場合も多く、その状態をもってPDCAが確立しているということも言えるわけですが、多くの地域が学ぶべきなのはそういうPDCAができるようになるまでのまちづくりに向けた条件形成の方法だと思います。

そのためにも、地域の取組の自己点検に当たっては、単なるマネジメントサイクルの視点ではなく、「R+PDCA」の観点から点検することをお勧めしたいと思います。

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