法律用語としての「中心市街地」

経済産業省のホームページで調べたところ「中心市街地の活性化に関する法律(中心市街地活性法)」は、英語にすると“Act on Vitalization in City Center”だそうです。「中心市街地」に該当する英語は“city center”で、字義のごとくまちの中心部のことです。こんなことをわざわざ調べてみたのは、法律用語としての「中心市街地」の解釈が時代遅れになっている感じがしたからで、英語で意味を捉えると、考えがはっきりするかもしれないと思ったからです。

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法律用語としての「中心市街地」は1998年に制定された中心市街活性化法で定義されています。法第2条「この法律による措置は、都市の中心の市街地であって、次に掲げる要件に該当するもの(以下「中心市街地」という。)について講じられるものとする。」という中に出てきます。法が規定する要件は下記の3点です。

  1. 当該市街地に、相当数の小売商業者が集積し、及び都市機能が相当程度集積しており、その存在している市町村の中心としての役割を果たしている市街地であること。
  2. 当該市街地の土地利用及び商業活動の状況等からみて、機能的な都市活動の確保又は経済活力の維持に支障を生じ、又は生ずるおそれがあると認められる市街地であること。
  3. 当該市街地における都市機能の増進及び経済活力の向上を総合的かつ一体的に推進することが、当該市街地の存在する市町村及びその周辺の地域の発展にとって有効かつ適切であると認められること

要件から、法律用語としての「中心市街地」は、ざっくりいうと小売業が集積し衰退している地区を対象にすると読み解けます。法文には「都市の中心の市街地」という表現があり、英語をなぞると、本来はこれが中心市街地とよぶべき範囲のようですが、法律では活性化方策の対象地区となっています。これが中心市街地活性化というと、商業振興中心となってしまっている原因だということがわかります。

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また第三条の基本理念には、「中心市街地の活性化は、中心市街地が地域住民等の生活と交流の場であることを踏まえつつ、地域における社会的、経済的及び文化的活動の拠点となるにふさわしい魅力ある市街地の形成を図ることを基本とし、地方公共団体、地域住民及び関連事業者が相互に密接な連携を図りつつ主体的に取り組むことの重要性にかんがみ、その取組に対して国が集中的かつ効果的に支援を行うことを旨として、行われなければならない」と記されています。

中心市街地が目指すべき方向は「地域における社会的、経済的及び文化的活動の拠点」ですが、わざわざ「中心市街地が地域住民等の生活と交流の場であることを踏まえつつ」と強調されていることがわかります。

中心市街地活性化法は、コミュニティマート等の商業活性化を意図して生まれたという出自から生活産業の振興を意図して生まれてきた制度なのですが、これはそのことをあえて強調したかったからのようです。おそらく制定当時の考え方としては、業務機能等の生産機能は生活空間とは対立する機能としてとらえられてきたのではないかと思われます。

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ただ、オフィス機能の誘致に取り組むことでまちの賑わいを維持することに成功した日南市の取組例等からわかるように、最近では中心市街地のにぎわいを取り戻すための機能として、オフィス機能が見直されています。さらに、コロナ禍をきっかけとして進むオフィス機能の見直しがこうした見方を推し進めていると思います。

関連して、商店街の空き店舗におけるオフィス立地について、中小企業庁が2017年度に実施した商店街空き店舗実態調査に興味深いデータがあります。空店舗の解体・撤去後の利用状況が好影響を与える用途として、新しい商店、商店街の共同施設という回答が約6割を占めていますが、オフィス立地についても同様に約60%の評価が与えられているのです。これに対して、住宅は「悪影響」が37.2%を占め、「好影響」は6.6%にすぎません。

Amazon、楽天などのネット取引が広まる中で、小売業界における実店舗の役割は大きく変わろうとしており、リアルな店舗の誘致はいっそう難しくなると考えられます。しかしながら、コロナ禍を機に定着しつつある新しい生活様式としてテレワーク化が進展すれば、郊外部、地方都市におけるオフィスニーズが高まる可能性が高いと思います。そしてオフィスが商店街に好影響を及ぼす可能性も高いのではないかと思われます。

 

空店舗解体・撤去後の利用が商店街に与えた影響

     出所)商店街空き店舗実態調査報告書(2017年3月)

 

 

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これからの中心市街地活性化を考えると、オフィス機能は積極的に受け止め、共存共栄を図ったほうがよいと思います。オフィス機能は商業活性化の面からも避けるべき機能ではなく、賑わいや需要を生み出す機能としてとらえるべきだと思います。

しかしながら、経済産業省が設置した研究会等で中心市街地活性化策が商業機能に限定されてきたと総括され、見直しが提言されているにも関わらず、オフィス機能との共存共栄に踏み出せずにいます。その原因が、冒頭に示した商業に偏っている現行制度上の「中心市街地」の定義にあるように思われます。

制度は時代の要請に従って見直すべきもの。これからのまちづくりを考えると、中心市街地が目指すべき「地域における社会的、経済的及び文化的活動の拠点」の実現に向けて、「中心市街地」の定義も見直すべきだと思います。

 

マインズ・アイ 代表取締役 名取雅彦

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